本作では、これら二つの面白さが合体して、さらなる面白みを生んでいます。原作である東野圭吾著作のエンターティンメントの真髄ともいえるでしょう。
相反する二人の価値観
刑事とホテルマン
原作の設定の上手いところは、グランドホテル方式とバディムービーを組み合わせただけでなく、「あらゆる人を疑う」のが商売の刑事と、「あらゆる人を歓迎する心を持つ」ホテルマンという真逆の価値観を持つバディを組み合わせた事です。
「性悪説」対「性善説」の対決という見方も出来るでしょう。
正反対の考えを持つ二人は、当たり前のように事あるごとに衝突してしまいます。
それがまた怪しいお客に対する観客の目線を混乱させていくという良い効果を生んでいます。
ベタつかない二人の関係
普通の映画なら、こうした二人に次第に信頼関係が生まれ、それがやがて恋愛感情に…。という描き方になるのでしょう。
ですがこの映画のいいところは、くっつきそうな二人がドライな距離感を保って物語が進行する事です。
それが真犯人探しの中でウェットな描写があってもベトベトせず、またたくさんの登場人物が苦にならない「乾燥度」の高い仕上がりになりました。
原作と映画の違いは
映画は、ほぼ原作に忠実
長編の原作ゆえ映画化の必然として省略されている点もありますが、それによって違う描き方になってしまっていることはありません。
山岸尚美と総支配人との間にはちょっとしたいい話がありました。
山岸が大学受験に上京した時に宿泊したのが「ホテル・コルテシア東京」で、山岸は母から貰った大切なお守りを部屋に忘れて来てしまいます。
それを名乗らずに受験会場に届けてくれたのが、現在の総支配人藤木だったのです。
その時の藤木の温かい言葉が山岸の「ホテル・コルテシア東京」への就職の大きな動機になっていたのでしょう。こうした話は端折られていました。
また映像的にちょっとした改変が加えられているシーンもあります。
そうした違いも含め、原作を読む前に本作をご覧になったかたは、鑑賞後に原作を読まれるのも面白いでしょう。
映画に出てくる怪しい客たちは原作とまったく同じなので、映画が先だとそれぞれの客の顔が見えてくるのではないでしょうか。
楽しいおまけ
さんま登場!
木村拓哉と仲良しの明石家さんまが友情出演していることは封切り前から評判でした。どこで出てきたのか、気が付きましたか?
うっかりしていると見逃ますね。ホントにちょっとの間です。
チェックインカウンターにいる紳士なのですが、「大竹様!」と呼ばれているのに気がつく人は、少ないかも知れません。
元奥様の名前を客の名前に設定するなんて、さんまのおちゃめぶりが発揮されていました。
「マスカレード・ホテル」、私たちの普段の暮らしを思いつつ、タイトルが表す真意に思いを馳せることで予想外の面白さが深まることでしょう。
原作既読で犯人が分かっていたとしても、映画の違いや、どう映像化されたか、を楽しみながら鑑賞することが出来る作品となっています。