ヴィンセントに髪の毛や血液を毎日提供して、必ず検査に通るように準備するところからも彼の人柄が見てとれます。
ですがその性格が仇になって、自殺未遂まで起こしてしまいました。
本来なら彼のような優秀な適正者は劣等感という感情を抱く環境ではないはずです。
適正者であれば何不自由なく暮らせる社会。
ですが実際のところ不適正者と同様に遺伝子優性社会において犠牲になる可能性があるのです。
この遺伝子優性社会における犠牲者は、ヴィンセントの協力者として他にも登場します。
周囲の協力者の想い
ヴィンセントが不適正者であることを知りながらも黙っていてくれた人達がいました。
それは秘書のアイリーンと医師のレイマーです。
遺伝子コンプレックス
アイリーンは適正者でありながら心不全の怖れがあるため、宇宙へ行くことを断念しています。
心臓に欠陥がある点はヴィンセントと同じですが、彼女の場合は遺伝子検査が全てだと思い込んでいました。
もしも遺伝子検査で心臓の欠陥が発見されていなければ、彼女は宇宙飛行士になっていたかもしれません。
ですが遺伝子に不具合があるのだから抗えるはずがないという考えが、彼女をチャレンジや努力から遠ざけていたのです。
それは一種の言い訳ともとれますが、彼女にはコンプレックスだったのでしょう。
アイリーンはヴィンセントの事実を知った時に動揺しましたが、逆境に立ち向かう彼を受け入れる決意をしました。
遺伝子で全てが決まる社会に希望の光を見出してくれた彼の努力を認め、このまま夢に向かって突き進むことを願ったのです。
不適正者の息子
レイマー医師の息子も宇宙飛行士になりたかったのだと語られています。現実には不適合者が宇宙飛行士になれる可能性は0%。
しかしそんな不可能を可能にしたヴィンセントに心の中で大きな拍手を送っていたことでしょう。
それと同時にこの遺伝子優性社会に疑問を持っていたことがヴィンセントの協力者になる要因だったと推測されます。
遺伝子で全てが決まるのか
ヴィンセントの努力を知り、1番応援していたジェローム。次第にヴィンセントの夢が自分の夢と重なって見えてきました。
金メダルに固執していた自分を改めて客観視し、いかに結果だけを追い求めていたかを知ることとなったのです。
目の当たりにしているヴィンセントの努力は素晴らしい。
銀メダルは結果であって全てではない。自分も努力して銀メダルを獲得したではないか。
ヴィンセントの努力に自分は心を打たれ、夢は他人から与えられるものではなく自分の中にあるのだと悟ったはずです。
そして自分の人生は遺伝子ではなく自分で決めるのだということにようやく気づきました。
自殺したジェロームの心情
ロケットの発射と同時に焼却炉に身を投げたジェローム。なぜ彼は自殺を選んだのか理解できなかった人もいたと思います。
最期の時、彼はどのような想いでいたのでしょうか。
やっと自分を許せた
優秀な遺伝子を持ちながら結果を残せなかった自分の人生を彼は許せませんでした。