出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B01HOFPQVQ/?tag=cinema-notes-22
フランス北西部の港町を舞台にした「悲恋」(といっていいでしょう)を描いた1964年のフランス映画「シェルブールの雨傘」。
ジャック・ドゥミ監督。ミシェル・ルグランが音楽を担当したミュージカル映画である。
第17回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/シェルブールの雨傘
クリスマスが近い雪の降るガソリンスタンドのラストシーンを観たくて何度も観てしまうという熱狂的ファンも多くいます。
しかし、全編「歌唱」で綴るという野心的手法は好き嫌いが分かれるところ。
ミッシェル・ルグランの曲に乗せて綴られる約90分の物語は恋愛における永遠のテーマを歌い上げます。
それは「時間」と「距離」は恋愛に影響を与えてしまうのか、という事。
ラストシークエンスでジュヌヴィエーブから「あなた今、幸せ?」と訊かれたギイの「とてもね」という答えは真実だったのでしょうか?
ジュヌヴィエーブはなぜそんな質問をしたのでしょうか?
男女の永遠のテーマともいうべき大きなテーマをお洒落に描いたこの作品の底に流れる核心を探ってみたいと思います。
まだまだ若い男女の恋愛
6年間の物語
「シェルブールの雨傘」は1957年から1963年までのジュヌヴィエーブとギイの恋と愛のお話。
話が始まった時、雨傘屋の娘ジュヌヴィエーブは17歳、恋人で自動車修理工のギイは20歳でした。
熱烈な恋愛関係にあった二人ですが、その愛情に関する幼さを、ジュヌヴィエーブの母が盛んに指摘します。
若さゆえの浅さ
ジュヌヴィエーブの母の指摘を待つまでもなく、若い二人には「恋」と「愛」の区別さえ恋愛の熱狂の中で見えなくなっていました。
二人の恋のメインテーマとして流れるのが、その後歌詞も付き英語では”I Will Wait For You”として世界的大ヒットする曲です。
恋に夢中な二人は子供の名前を考えたりしていましたが、そこで止まりませんでした。
結婚へと突き進む二人。ジュヌヴィエーブの母の了解を取り付ける前に、ジュヌヴィエーブが妊娠するという事態になります。
恋愛経験の浅い二人の恋は真剣ではありましたが、二人だけの世界に没入し、周りが見えなくなっていました。
特にジュヌヴィエーブのまだまだ若い(幼い)ひたむきさはこの物語の結末に大きな影響を与えることになります。
その時点で純粋すぎた彼女の恋愛は自分の人生さえ違うものにしてしまったともいえるでしょう。
2年の兵役・カサールの登場という試練
アルジェリア戦争へ
20歳になったギイに2年間の兵役が課せられます。当時、フランスはアルジェリア戦争の真っ只中でした。
戦地に赴くギイを心から心配し、ギイの胸にすがって泣くジュヌヴィエーブ。
あなたがいなければ生きていけないわ
引用:シェルブールの雨傘/配給会社:東和
2年しっかりあなたの帰りを待つわ!私のことは心配しないで!とはならないジュヌヴィエーブの幼さ、弱さが出ています。
「時間」と「距離」そして「白馬の騎士」登場という試練
ここで恋愛映画の王道テーマもである、愛する二人に与えられる「時間」と「距離」という試練。
さらにギイが戦地に行ってしまってから分かる妊娠という試練。
そしてジュヌヴィエーブの前に「白馬の騎士」的に登場するカサールという宝石商という試練。
恋愛経験の少ないジュヌヴィエーブは、生まれてくる赤ちゃんも面倒をみるという真面目なカサールに心が揺れます。
カサールは恋愛の経験値が高い男性。
彼がジュヌヴィエーブの頭に王冠を載せる行為は彼の心が既に決まっているからと捉えられるでしょう。
ジュヌヴィエーブはギイを裏切ったのか
ギイが戦地に赴いてから1年経つか経たないかの時期。
ジュヌヴィエーブはギイからの手紙を手に、写真を見ないと忘れそう、と言い出します。
カサールが自分の大きくなったおなかをみたらどう思うでしょう?
引用:シェルブールの雨傘/配給会社:東和
そんな心配をし始めています。
この辺りがジュヌヴィエーブの心の転換点とみていいのかも知れません。
主に彼女のひたむきすぎた若い恋は、ギイとの間に横たわった「時間」と「距離」を克服できなかったのです。
彼女の心の隙間にはまってしまったカサールの「近くにいて支えてくれる」という「見えて触れる」愛に負けたともいえるでしょう。
ギイはなぜ遠くに行ってしまったの?
引用:シェルブールの雨傘/配給会社:東和
ジュヌヴィエーブのこの言葉こそ、彼女の偽らざる本音でしょう。
彼女はギイを裏切ったのではなく、いつも自分の側にいて「愛してる」と言ってくれる実体が欲しかっただけなのです。