印象的な様々な衣装を身に着けた女性が登場するシーン(女性が外に出始めた時期)。
時代の象徴としてのクルマも多く出てきます。
群舞のシーンなどではフラッパーの女性の姿が見られます。
一番目を引くのはキャシーとドンの出会いのシーンでしょう。
ファンに取り囲まれたドンが道を横切って逃げて市電の屋根に乗り、そこからオープンカーに落ちるというところ。
クルマを運転していたのは「女性である」キャシーだったのです。
何気ないシチュエーションかとも思いますが、考えてみれば「古き良き20年代の時代の雰囲気」がしっかりと演出されています。
さらにジーン・ケリーが劇中劇「踊る騎士」で現代のシーンとして踊る「ブロードウェイ・メロディー」。
世界初の全編トーキーによるミュージカル作品であり、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)ミュージカルの第1作である
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ブロードウェイ・メロディ
「雨に唄えば」で繰り広げられる同作では
MGMミュージカルの第一作であるこの作品の製作過程が本作に反映されている。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/雨に唄えば
それがケリーが踊る「ブロードウェイ・メロディー」というわけです。
ケリー最大の見せ場でもあるこのシーンも「古き良き」20年代へのオマージュとして見て取れるのです。
サイレントからトーキー移行時の悲喜劇
本作では、映画制作の裏側をギャグにしています。バックステージもののコメディとしても魅力たっぷり。
いわば「トーキー移行期ハリウッドあるある」(マイクの位置問題や画像と音のズレとか)が爆笑を誘う仕掛けです。
そこにキャシーとリナの声の問題を上手く絡めてあります。ここがこの映画の物語としての最大の見所。
そしてラストのリナの後ろで上がるカーテンでのカタルシス。
当時実際に起きた(だろう)ことを笑い飛ばしてはいますが、そこには本作が作られた1952年の映画人の映画愛が感じ取れるのです。
制作こぼれ話
本作はすべてが人力に頼っていたころに製作されました。
CGやVFXのない時代の映画ならではの苦労やこぼれ話も多く生まれた作品でもあります。
劇中劇「踊る騎士」の中でMGMの看板女優・ダンサーであったシド・チャリシーとダンスを繰り広げたジーン・ケリー。
彼はチャリシーより身長が低かったのです。
そのため、チャリシーは終始膝を折るポーズを続け、階段を使ったり、遠近感を利用したりして、身長差を隠す演出が取られています。
一方、悪声女優リナの吹き替えを担当したキャシーを演じたデビー・レイノルズ。
実はレイノルズ自身、他の歌手に吹き替えられていた歌唱がこの映画にはあったのでした。
Elizabeth Noyes Hand was a singer and actress best known for dubbing two of Debbie Reynolds’ numbers in the 1952 film Singin’ in the Rain.
引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Betty_Noyes
「エリザベス・ノイス・ハンド
1952年の映画「雨に唄えば」において2曲のデビー・レイノルズの歌を吹き替えしたことでよく知られている歌手で女優です」
2曲とは「ウッド・ユー Would You?」と「君は僕の幸運の星 You are My Lucky Star」を指しています。
映画の中で大女優に対してしたことを実際は自分もやられていたのでした。
オリジナル・サウンドトラックではレイノルズ本人のバージョンも聞くことが出来ます。
バラードを歌うには19歳の娘にはいささか深みが足りなかったのでしょうか。
レイノルズが悪声であった訳ではありません。
因みに、ラストの「雨に唄えば(Aフラット版)について。
リナの歌声を吹き替えているキャシーの声をノイスが吹き替えている、というややこしい説もあったりします。
この他にも本作には十指にあまるほどの制作秘話が語られていて、名作誕生は簡単ではなかったことを偲ばせています。
色褪せないミュージカル映画の金字塔
計算されたシナリオ、緻密で訓練されたタップ&ダンス、魅力たっぷりのキャスティング、記憶に留まる数々の音楽。
オリジナリティに溢れた物語と興味津々のトーキー黎明期の爆笑「あるある」。的確に描写された古き良き20年代のアメリカ。
観た人を幸せにせずにはおかないハリウッド・ミュージカルの大傑作は、今も世代を超えて愛されています。