私達の人生は、自分の意志で掴み取り、自分自身の意志で幸せになっていくものなのだというような監督の強い意志が今作から感じられました。
夢のユートピアだけでは生きていけない
人間にとって生きる事は苦労の連続です。
ただ幸せで、自分達にとって楽な事だけならそんなものは人生とは呼べないでしょう。
「人間小型化」は人間が生み出した理想論であり、エゴの代表とも呼べます。
苦労してこそ真の幸せを掴み取れるのだ!「人間小型化」の世界は本当の人間らしい生き方ではないとのメッセージが込められているのです。
ポールの想い
「ダウンサイズ」というこの映画では主人公のポールの想いも様々に揺れ動いていました。
作品を通してのポールの心情の変化を探っていきましょう。
ポールが再生していく物語
序盤のポールは生きていく事に無気力でした。
一緒に小型化するはずだった妻には逃げられ、お酒や薬に溺れたりと現実逃避の連続です。
しかし、ポールは周囲の人々、特にノクという存在に出会って自分の人生の価値を考えていくようになりました。
それがラストのポールの決断に繋がってきます。
ポールは自分の意志で考えて自分で幸せになるという最高の決断を手に入れたのです。
これは他の誰でもなくポールの人生の再生の物語といえるでしょう。
誰の為に生きるか
シェルターに向かったポールは永遠に滅びない世界よりも、ノク達のいる元の現実世界を選びました。
「挫折だらけの男だ」
引用:ダウンサイズ/配給会社:パラマウント映画
というドゥシャンの言葉通り、ポールは人生の一番大事な所で“最良の挫折”を選ぶのです。
ポールは長く生き続けるよりも“誰の為にどう生きるか”に最後の最後で気付きました。
その時のポールの表情は「ダウンサイズ」の映画の中で最も生き生きとしています。
人生の中で“生きる希望”を初めて見つけたのです。
ラストシーンから見えるもの
食事を届けた一人の老人をポールがじっと見つめるシーンで物語は幕を閉じましたが、あれには深い意味があるのです。
今まで当たり前であった事が当たり前でなくなった時、人はその大切さを初めて実感します。
ポールもその事に気付いたのでした。
側に愛する仲間がいて、一緒に美味しい食事ができるというそれだけで人間は幸せなのです。
ポールは老人を見て、その幸せの真実というものに改めて気付けたのでしょう。