そして、原題「To Kill a Mockingbird」の和訳で「ものまね鳥(マネシツグミ)を殺すこと」が、この物語のキーワードになります。
弁護士アティカス
アティカスは弁護士としてだけでなく、人としての倫理を重んじ貧困な人々にも公平に接する人徳のある人格者です。
例えば、弁護士費用の支払えない町の貧困者がその一部としてクルミを渡し、アティカスはそれを受け入れるような優しさがあります。
それはいわゆる「アメリカの良心」に基づいた理想の父親像そのものです。
黒人青年トム・ロビンソンと謎の男「ブー」
トムは町の外れに住む貧しい素朴な黒人青年で、謎の男ブーはラドリー家に暮らす誰も姿を見たことがなく何者なのかはわからない人物です。
ブーが謎といわれるのは1950年代という時代背景から、知的障害か精神疾患があるために家族から軟禁されているからではと推測できます。
キーワード:「ものまね鳥を殺すこと」
息子ジェムは父親の銃を欲しがっていました。父アティカスがジェフに銃を渡すときに下記のように諭します。
「青カケスは撃ってもいいけど、マネシツグミは殺してはいけないよ、彼らは私達を歌で楽しませる以外何もしないのだから」
引用:アラバマ物語/配給会社:ユニバーサル映画
後々この言葉がスカウトとジェムの心に葛藤を与え成長へと導きます。
登場人物の視点で映画を観る
「弁護士」の視点でみた正義
アティカスは弁護士として何が「事実」であるのか?という、無実の証拠と根拠を冷静かつ端的に言及します。それが単純に「正義」だからです。
陪審員には感情的ではなく単純にトムが無実である事実を認める勇気をもってほしいと訴えますが、話しはそう単純ではありませんでした。
黒人を弁護したことで裁判費用で便宜をはかった人物すら先頭に立つ誹謗中傷や審議の妨害などをうけ、「正義」の無力を実感します。
「貧困層」の不平や不満
被害者を装う白人の女性は貧困家庭の娘でした。白人であっても貧困というだけで世間での立場はとても弱く、家庭内暴力も日常的にあります。
つまり娘がトムを誘惑したにも関わらずそれを暴力的な父親にみつかったことで、父親や世間の非難から身を守るために嘘をつくのでした。
父親もまた日頃から娘に暴行を加えていたことがばれないよう、うさを晴らす矛先をトムに向け無実の罪を着せたのです。
「黒人」がうける迫害
この物語の「核」となるのは時代背景と差別という土着文化です。当時のアメリカは社会全体が貧しく、民衆は多くの制度で抑圧されていました。
庶民の不平や不満などは貧困層の家庭内暴力やアルコール依存に陥る原因となり、そのうっぷんの矛先が黒人への差別や迫害へと連鎖したのです。
「子供達」の視点と葛藤
この作品の醍醐味は先入観のない子供の心と目を通してみた日常の中で、メッセージの本質を見せるという手法にあります。
大人の中で起きている理不尽なできごとが、そのまま子供たちの日常にも影響してきます。
それは日ごろ子供たちが父親からの「正義」や「平等」の教えに反し、友達からの嫌がらせやいじめがあるという現実に矛盾を感じることです。
さらに父の勝訴を確信している裁判の結果も敗訴という結果を目の当たりにし、ますます困惑を深めていくのでした。