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【アラバマ物語】評価され続ける理由を徹底解説!役柄の視点別に物語を展開させる演出方法とは?作品が伝えるメッセージも考察

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B0067G4ZJ8/cinema-notes-22

「マネシツグミは殺してはいけないのよね?」と父親に問いかける少女の瞳は不安げに揺れています。

少女の父親は弁護士でそのころ結果の見えている非常に厄介な事件の弁護を担当していました。

案の定、審議もろくにされないまま真実は藪の中へ。父親の言葉の正義だけが子供たちの中に刻み込まれていました。

今回は1962年公開、同年第35回アカデミー賞主演男優賞・美術賞を受賞した「アラバマ物語」について解説していきます。

アラバマ物語とは

アラバマ物語 (日本語) 単行本 – 1984/5/1

1960年発刊でピューリッツァ賞を受賞したアメリカの女流作家ハーパー・リーの自伝的小説「To Kill a Mockingbird」を映画化したものです。

物語に出てくる少女のスカウトがハーパー・リー自身といわれています。

映画の時代背景を知る

イタレリ 1/72 南北戦争 南軍兵 プラモデル IT6178

南北戦争(1861年4月12日 – 1865年4月9日)によってアフリカ系黒人の奴隷は解放されました。

1930年代に入ると南北戦争前の白人優位で黒人蔑視の社会を取り戻そうとするリディーマーと呼ばれる団体が出現します。

そのことにより、1950年代頃になると再び黒人に対する迫害や差別が横行するようになっていました。

人種差別の実態

次第にアメリカはリディーマー系の政党勢力が強くなり、再び黒人の選挙権がはく奪されてしまいました。

その上「人種隔離法」という法が成立し公共の場所や施設・学校にいたるまで、黒人用と白人用と区別されるほど人種差別が過激になったのです。

アラバナ州の風土

歴史的な写真 アーサー・ロスタイン アフリカ系アメリカ人家族 Gee's Bend アラバマ州 ヴィンテージウォールアートデコポスター レプリカ 20in x 16in 406525_2016_1

アメリカ南部のアラバナ州は、古くからアフリカ系黒人の奴隷が綿摘みをし、綿の産地として発展しのどかな田舎町の一面があります。

メイカムはのどかでのんびりした田舎の雰囲気は残しつつ、黒人への人種的差別や白人同士でも貧困者への差別と偏見が根強く残る土地でした。

役柄の視点別に物語を展開させる演出方法とは??

アメリカ南部のアラバマ州。妻を亡くし幼い子供を抱える弁護士フィンチに暴行事件の容疑者とされた黒人青年の弁護の任が下る。人種差別と偏見の中、黒人側についたフィンチに風当たりは強くなるが

この映画は表向きは人種差別が横行した時代の黒人が被告人にされたという、不平等さを描いている法廷映画という見方をされています。

しかし時代背景をふまえながら、この映画を観る上で注目したいのは登場人物の役柄の視点で考察するとメッセージがみえてくるという演出です。

スカウトとジェム兄妹の父親であり弁護士のアティカス、無実の罪をきせられた黒人青年トム謎の男ブーに注目しましょう。

そして、原題「To Kill a Mockingbird」の和訳で「ものまね鳥(マネシツグミ)を殺すこと」が、この物語のキーワードになります。

弁護士アティカス

アティカスは弁護士としてだけでなく、人としての倫理を重んじ貧困な人々にも公平に接する人徳のある人格者です。

例えば、弁護士費用の支払えない町の貧困者がその一部としてクルミを渡し、アティカスはそれを受け入れるような優しさがあります。

それはいわゆる「アメリカの良心」に基づいた理想の父親像そのものです。

黒人青年トム・ロビンソンと謎の男「ブー」

トムは町の外れに住む貧しい素朴な黒人青年で、謎の男ブーはラドリー家に暮らす誰も姿を見たことがなく何者なのかはわからない人物です。

ブーが謎といわれるのは1950年代という時代背景から、知的障害か精神疾患があるために家族から軟禁されているからではと推測できます。

キーワード:「ものまね鳥を殺すこと」

枝に腰掛け モッキンバード

息子ジェムは父親の銃を欲しがっていました。父アティカスがジェフに銃を渡すときに下記のように諭します。

「青カケスは撃ってもいいけど、マネシツグミは殺してはいけないよ、彼らは私達を歌で楽しませる以外何もしないのだから」

引用:アラバマ物語/配給会社:ユニバーサル映画

後々この言葉がスカウトとジェムの心に葛藤を与え成長へと導きます。

登場人物の視点で映画を観る

「弁護士」の視点でみた正義

アティカスは弁護士として何が「事実」であるのか?という、無実の証拠と根拠を冷静かつ端的に言及します。それが単純に「正義」だからです。

陪審員には感情的ではなく単純にトムが無実である事実を認める勇気をもってほしいと訴えますが、話しはそう単純ではありませんでした。

黒人を弁護したことで裁判費用で便宜をはかった人物すら先頭に立つ誹謗中傷や審議の妨害などをうけ、「正義」の無力を実感します。

「貧困層」の不平や不満

被害者を装う白人の女性は貧困家庭の娘でした。白人であっても貧困というだけで世間での立場はとても弱く、家庭内暴力も日常的にあります。

つまり娘がトムを誘惑したにも関わらずそれを暴力的な父親にみつかったことで、父親や世間の非難から身を守るために嘘をつくのでした。

父親もまた日頃から娘に暴行を加えていたことがばれないよう、うさを晴らす矛先をトムに向け無実の罪を着せたのです。

「黒人」がうける迫害

この物語の「核」となるのは時代背景と差別という土着文化です。当時のアメリカは社会全体が貧しく、民衆は多くの制度で抑圧されていました。

庶民の不平や不満などは貧困層の家庭内暴力やアルコール依存に陥る原因となり、そのうっぷんの矛先が黒人への差別や迫害へと連鎖したのです。

「子供達」の視点と葛藤

アラバマ物語 [DVD]

この作品の醍醐味は先入観のない子供の心と目を通してみた日常の中で、メッセージの本質を見せるという手法にあります。

大人の中で起きている理不尽なできごとが、そのまま子供たちの日常にも影響してきます。

それは日ごろ子供たちが父親からの「正義」や「平等」の教えに反し、友達からの嫌がらせやいじめがあるという現実に矛盾を感じることです。

さらに父の勝訴を確信している裁判の結果も敗訴という結果を目の当たりにし、ますます困惑を深めていくのでした。

キーワードから考察できること

手錠をかけられた黒人男性

このあと子供たちにふりかかる理不尽さの理由を子供なりの解釈で理解していくという演出とストーリー展開になります。

それは観る者にも現実を受け入れ理解させるプロセスとなり、やるせない感情もシンクロさせていくのです。

大人社会の歪んだ「正義」

「アラバマ物語」の原題となった小説「To Kill a Mockingbird(マネシツグミを殺すこと)」から読み取れるメッセージは何だと思いましたか?

それは、子供たちが直面する心の葛藤を通し人間社会の永遠のテーマ「正義」とは何か?を問いかけていることです。

その葛藤のきっかけとなったのが、父アティカスが狂犬病の犬を銃殺し子供達を驚かせてしまうシーンにあります。

「なぜ!?マネシツグミ(害をおよぼさないもの)は殺してはいけないって言ったのに、鳥はダメでどうして犬は殺していいの!?」

引用:アラバマ物語/配給会社:ユニバーサル映画

これは「命」に関わる疑問との葛藤といえます。「子供に危害が及ぶ存在=狂犬病=射殺」という大人の論理です。

「アイデンティティ」の崩壊

裁判はトムが有罪になり搬送中に逃走したという理由で銃殺され、「正義」が藪に葬られるという最悪の展開で非常に後味の悪さが残りました。

さらに黒人の弁護をしたことに不満をもっていた白人女性の父親が、ジェムを襲撃するという暴挙でスカウトのアイデンティティに変化が起こります。

「To Kill a Mockingbird」の意味を知った瞬間

謎の男ブーがジェムを救い、襲撃犯は刃物で刺され死亡して発見されたことで、謎の男ブーが刺したのではないか?と、推理できます。

  1. 保安官が襲撃犯が死亡していたことを不慮の死亡事故で終決させようとします。それはなぜなのでしょうか?
  2. アティカスが死亡の真相を明らかにしようと動きだしたときに、スカウトから出た言葉のもつ意味はなんなのでしょうか?

「保安官の言ったことは正しいわ!だって、マネシツグミを撃つのはいけないのでしょう?」

引用:アラバマ物語/配給会社:ユニバーサル映画

①は裁判を通しトムが無実だということを認めながらも、有罪を黙認せざるをえなかった保安官の背徳心があったからでしょう。

②は保安官の判断がブーの身を守ることになると気がついてついた嘘です。

つまり、この時スカウトは子供なりにTo Kill a Mockingbird」の意味を理解したとわかります。

現代も問題提起される「アメリカの正義」とこの作品のメッセージ

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2014年 12/9号 [アメリカの「正義」]

今も底泥のごとく残る「差別」への考え方を「弁護士(父親)の視点」「黒人、弱者の視点」「子供の視点」という形で表現しているのが本作品です。

“撃ってはいけない「マネシツグミ」”とは?

“撃ってはいけない「マネシツグミ」”とは、なんの害も及ぼさない黒人青年のトムや精神疾患のあるブーを指しているといえます。

トムは黒人というだけで撃たれてしまい、子供たちをただ見守ってきたブーを理不尽で撃たれないよう虚偽で守ったにすぎません。

つまり、アメリカの「正義」とは曖昧でこの倫理が壊れたとき「差別」による事件を引き起こす要因になっていると教えているのです。

アメリカだけではない身近にある「差別」

考えてもみれば、私たちの身のまわりにも大なり小なりの「差別」が存在していて、アメリカだけの問題ではありません。

「性同一性障害」「同性愛者」「身体障害」のみならず、「女性蔑視」などさまざまな差別問題が現代社会には存在するのです。

それらに置き換えてこの作品を観ることで「差別」に対する意識改革ができることが評価につながっているともいえます。

まとめ

アラバマ物語 (名作映画完全セリフ集スクリーンプレイ・シリーズ) 単行本

この映画が現代もくり返し観られ称賛される理由は、人類社会が抱える人種差別の問題とその差別の根本原因を浮き彫りしているからです。

それは「正義」という大義名分から命を軽く扱う問題点もはらみ、「正義」とは立場によって善にも悪にもなりうるという危うさでもあります。

つまり「正義・平和・平等」とは、社会環境や人の立場で解釈が変わることを子供の心の成長を通し、問題提起し自問自答させる作品だからです。