この作品は、制作者サイドが削れるギリギリまでシーンをカットしています。
観る者は「おそらく○○したであろう」という考察をしながら、本編を見ていくことになるのです。
例えば、コントロールがサーカスを辞めるサインをした後に、スマイリーがサインをするシーンはカットされています。
しかしその後二人が建物を出るシーンが流れており「おそらくスマイリーも辞めたのであろう」と考察できます。
だからこそ、少しでも見逃すと話についていけなくなってしまうのです。
モグラの隠し方が巧み
モグラであるビル・ヘイドンは、決して先頭に立とうとせずスマイリーたちに協力的立場を取っています。
「陛下はどこかな?」
引用:裏切りのサーカス/配給; 引用:裏切りのサーカス/配給;ギャガ
新リーダーのパーシー・アレリンを探す際は、彼を陛下と呼びユーモアのセンスも垣間見せています。
そしてパーシー・アレリンを担ぎ上げることで、自分の隠れ蓑にしているのです。
更にビル・ヘイドンは他者を巧みにモグラのように思わせることで、自分がモグラから最も遠い存在にしています。
ゲイ的な描写を理解する
『裏切りのサーカス』を理解するには、散りばめられたゲイ的な要素を知る必要があります。
男同士の愛が全ての鍵になっている映画なのです。
ピーター・ギラムとリチャード先生、ビル・ヘイドンとジム・プリドー、そしてスマイリーとカーラには男同士の愛が隠されています。
カーラがスマイリーに行っていることは、全て愛ゆえの嫉妬心からくるものではないでしょうか。
この男同士の愛を理解すれば、作品の謎がいとも簡単に解けていくようです。
Tinker Tailor Soldier Spy
本作の原題は「Tinker Tailor Soldier Spy」であり、マザーグースの歌となっています。
マザー・グースのCounting Cherry Stones
原題「Tinker Tailor Soldier Spy」は劇中にも出てきますが、元はマザーグースに出てくる一節です。
イギリスでは広く知れている子供の歌であり、職業を占う歌でもあります。
モグラという職業を見つけ出す為に、この歌を利用したセンスは見事なものです。
劇中ではチェスの駒に、疑わしき人物を貼っていますが、よく観るとスマイリーの写真は黒のクイーン、カーラは同格の白のクイーンに貼ってあります。
細部にこだわった演出なのです。
裏切りの中の切なさ
本作がただの推理サスペンスにとどまらないのは、作品に込められた悲壮感にあるのではないでしょうか。
「戦争中の君の体験がそうさせるのだろう。味方を自在に替えることで生きのびてきた。誰の配下にもつく」
引用:裏切りのサーカス/配給; 引用:裏切りのサーカス/配給;ギャガ
上記はスマイリーのセリフですが、冷戦という騙しあいの世界で生き残る術を表現しています。
裏切ることが生きのこる術だったのかもしれません。
裏切りたくて裏切ったのではない……そんな思いも感じてしまいます。
また裏切りの中で、人を愛する切なさを痛いほど観る者に突き付けています。
本作で描かれた冷戦時代の東欧は、人を愛すること=弱点となるような過酷で寂しい世界だったのかもしれません。
「愛」を描くスパイ映画
『裏切りのサーカス』はリアルなスパイ映画の影に、愛という大きなテーマが隠されています。
邦題の「裏切り」とは組織への裏切り、そして「愛」へ裏切りの双方をさす言葉のように感じます。
繰り返し観ることで、彼らの秘めた思いが切なく胸に刺さってくるのではないでしょうか。
観るごとにどんどん深さを増す、まさに名作とよべる作品です。