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【リズと青い鳥】この映画に圧倒的な透明感と静謐さをもたらしたものは何か考える!京都アニメーションの一つの完成形が誕生

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07MKGMWTD/cinema-notes-22

高校生の青春を描く武田綾乃の代表作『響け! ユーフォニアム』シリーズはテレビアニメ化もされており、今作は『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を京都アニメーションが映画化した作品です。

今作の特筆すべき点は、圧倒的な透明感と静謐さ。

作品のイメージを方向づけるこれらの要素をもたらしているものはいったい何なのかを考察していきましょう。

スピンオフにして、独立した作品としても成立


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劇中作の童話『リズと青い鳥』は、映画のストーリー全体で非常に大きな役割を果たしています。

『響け!ユーフォニアム』シリーズのスピンオフである今作。

これまで作品に触れていない人にも楽しんでもらうためには、多少説明口調のセリフを入れるのが普通です。

しかし童話を用いることで、それらのノイズになり得る要素を入れ込まず、観る側に登場人物や映画の世界観を伝えることに成功しています。

原作『リズと青い鳥』の役割


映画『リズと青い鳥』ED主題歌「Songbirds」 シングル, マキシ

設定説明のためだけではない童話『リズと青い鳥』の役割

童話『リズと青い鳥』は主人公2人の関係性やストーリーなどの設定説明の役割だけではなく、「二人で出る最後のコンクールの自由曲」としての役割も持っています。

今作はこの「自由曲」に取組む過程での主人公2人の葛藤や成長を描いており、童話は多面的な役割を持つことで映画全体に統一感を持たせるという役割も果たしました。

人間としての成長を助ける教科書としての役割

二人で出る最後のコンクール。

自由曲は「リズと青い鳥」。

童話をもとに作られたこの曲にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。

引用:http://liz-bluebird.com/

ちなみに、このソロパートとは自由曲「リズと青い鳥」の「第三楽章 愛ゆえの決断」部分。

第三楽章のソロ練習の場面で、顧問の滝先生から演奏する上でのアドバイスを伝えるシーンがありました。

そのアドバイスからは、映画全体を通して感じる主人公2人の未だ洗練されていない拙いコミュニケーションを改善させるヒントや、2人のありのままの関係性を感じ取ることができます。

「笠木さん、オーボエの音を聴いていますか?

悪くはありませんが、少しあなたの方が感情的になりすぎることがある。

この部分はお互いの音を聴くことが何より大事です。

あなたから鎧塚さんへ、そっと語り掛けるように。できますか?」

リズと青い鳥/配給:松竹 

滝先生から希美への演奏のアドバイスは、希美のみぞれへのコミュニケーションの取り方そのものを表現しています。

「鎧塚さん、ここはオーボエとフルートの掛け合いが何より大事です。

あなたもフルートからの問いかけに答えなくてはなりません。

音楽には楽譜に書ききれない間合いがあります。

譜面の隙間を流れる心を汲み取ってください。

もっと歌って。できますか?」

リズと青い鳥/配給:松竹 

そして、みぞれに対するアドバイスを言い換えれば「希美の言葉を額面通りに受け取るのではなく、言葉の行間や心の中を汲み取るようにしなさい」となります。

2人の演奏に対する滝先生のアドバイスはメタファー(暗喩)の働きも持っていることがわかります。

つまり、童話から自由曲へと形を変えた『リズと青い鳥』は主人公2人が成長するための教科書の役割も担っているのです。

この作品の透明感はどこからくるのか


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主人公の2人は重なり合わない存在(disjoint:異なる素数)として描かれ、共依存の関係が見て取れます。

そして2人は自分という存在を他者を介して理解していく過程で葛藤を経験します。

その葛藤を丁寧に描く今作品。

いったい、この透明感はどこからくるのでしょうか。

葛藤が生じさせる透明感

 

リズと青い鳥 入場者 特典 フィルム 鎧塚みぞれ 傘木希美 響け!ユーフォニアム

 

葛藤という言葉は「もつれ」だったり「悶着」という意味を持ち、むしろ透明感とは遠い位置にある言葉のように思われます。

ですが「ごちゃごちゃ」していることが逆に「透明感」を演出する材料になっています。

葛藤を感じさせるシーンの1つに、希美はみぞれに対して嫉妬や劣等感を持ちながらも自分のそんな気持ちに気づかないふりをしています。

そのような自分の態度が青い鳥(みぞれの才能)を鳥籠に閉じ込めてきたことに気づき、ますます自分を哀れに感じてしまいます。

一方みぞれは「自分には何もない」と思っているため、自分にないものをたくさんもった希美に対して憧れに似た依存をしてしまっています。

その様が青い鳥(希美)が自分のもとから去らないように「相手を大切にしすぎる」リズとして描かれています。

中学生や高校生になると「将来」を考え、自分そのものを分析したり、他者を通して自分の輪郭を確認したりし始める時期でもあります。

そんな時期の「まだ何者でもない自分=真っ白なキャンバス」であること。

そして日々の葛藤を通して真っ白なキャンバスに色を置いていこうとする少女たちの姿が、観る側に透明感を感じさせるのではないでしょうか。

美しさと儚さが同居する青春の苦さ


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希美はエンディング直前のシーンで、みぞれが自分のパーソナルな部分を好きとは言ってくれるけれど「希美のフルートを好き」とは言ってはくれないことに気づいてしまいます。

今一番言って欲しいことを言ってもらえなかったことで、自分の才能に折り合いをつけてしまう残酷なシーンでもあります。

それに対し希美が「みぞれのオーボエが好き…」と言ったのは、自分が言ってほしかったのはこの言葉なんだと相手に気づかせるため。

と同時に、みぞれの青い鳥(才能)を大空へ解き放つ希美の愛の在り方を表す今作で最も美しさと儚さを感じさせるシーンとなりました。

こうして、お互いを鳥籠に閉じ込め合う共依存の状態から脱して、異なる道を歩み始めることを選択します。

その後、2人の関係性は素数の様に1以外(吹奏楽)の約数を持たないものから、「本番頑張ろう」という約数を持つようになりました。

2人の思いが重なり合い(joint)、ハッピーエンドに向かうことを示唆することで、青空のような遠くまで透き通る透明感を作品に与えたのではないでしょうか。

「静謐さ」をもたらす、いくつかの仕掛け


映画『リズと青い鳥』オリジナルサウンドトラック「girls,dance,staircase」

山田尚子監督特有の多層構造と非言語による描写

山田監督は、1つのセリフや行動でシーンの理解を促すのではなく、物語の中の出来事を多層的に重ねる手法を用いて、丁寧に登場人物の心の変化を伝えています。

例えば、登場人物の心理描写をセリフだけではなく、顔の表情はもちろん、髪の動きであったり、歩くスピード、歩くテンポ、指先の動き、視線の強さや動かし方など細部を重ねることで雄弁に語ることに成功しています。

これは、観る側に言葉で理解を促すのではなく、人類が進化する過程で身につけてきた相手の動きから様々な情報を得る能力を巧みに利用することで、意味を解釈しようとするタイムラグやノイズを減らします。

それが作画とあいまって静謐さを感じさせるのではないでしょうか。

また、間の使い方で静謐さを感じさせることは多くの作品で目にすることではありますが、あえてシンプルな音(風の音、鳥の囀り、足音)を入れています。

そのことで、静謐さを浮き彫りにする黒澤明監督のような手法も用いられていました。

ハコフグは素早くヒレを動かすが、進むスピードはとても遅い

吹奏楽部の部室で友達と雑談をしている希美のフルートに太陽光が反射し、離れた場所にいるみぞれの服にその反射光が当たる場面。

二人の距離感を絶妙に表している印象的なシーンです。

言葉を交わさずともお互いの存在を確認できたことに嬉しそうにするみぞれと、他の友達とすぐに別のことをし始める希美。

このシーンの直前にあった、水槽の中を泳ぐハコフグは素早くヒレを動かしていますが進むスピードはとても遅く、ほのぼのとしたシーンの様に描かれています。

が、これはみぞれの希美を思う気持ちの「報われない寂しさ」を表しており、ここでも多層構造を使うことでセリフや音を用いずに饒舌に心情を描いています。

孤と対の並列がもたらす静かな寂しさ

前段で紹介した主人公2人の気持ちのすれ違いを感じさせるシーンの直後に出てくる静止画では、「ドアの模様」「窓の手すり」「傘」が対を成して仲良く並んでいます。

しかし、これはただの場面展開としての役割だけではなく対比構造を作っています。

直前に寂しさを感じるシーンがあった後に、あえて静止画で対のモノが並ぶ静止画をもってくることで、寂しさを感じたみぞれの気持ちとの対比で、より静かで深い寂しさを演出しています。

このように山田監督はセリフを使わずに静的に理解を促すことで、この作品に静謐さをもたらしているのではないでしょうか。

緻密で繊細な仕事


山田尚子の思考構造 (MyISBN - デザインエッグ社) オンデマンド (ペーパーバック) – 2019/4/15

さまざまな要素を多層的に積み上げながらも、決して「くどさ」を感じさせず「透明感」や「静謐さ」を感じさせています。

それは緻密で繊細なバランス感覚で要素を選択しながら層を積み上げているからではないでしょうか。

山田監督の磨き上げられた感性とバランス感覚なくして、この作品の圧倒的な「透明感」と「静謐さ」は構築できなかったでしょう。

京都アニメーションの一つの完成形が誕生した


『 リズと青い鳥 』 西屋太志監修 線画集

ちょっとした仕草が伝える情報量の多さとその正確性

京都アニメーションと言えば「京アニクオリティ」と呼ばれる作画レベルの高さがあげられます。

ですが今作は美しくも儚いストーリーや背景、そして音楽と調和するようにテレビアニメからキャラクターのデザインを変更しています。

より実写に近いデザインにすることで、「ちょっとした仕草が伝える感情」を観る側に正確に伝わるように徹底的に研究されているだろうことがうかがい知れます。

「京都アニメーションの一つの完成形が誕生した」と言ってしまっても決して大袈裟ではない作品となりました。