しかしなぜ、フォレストは損得勘定をしないのでしょうか。
ここから先はさらに踏み込んで、この謎に迫ってみたいと思います。
母の言葉に隠れているもの
フォレストの価値観に最もつよい影響を与えているのは、いうまでもなく彼の母です。
ほとんどすべての行動が母のいいつけに従った結果だといっても過言ではありません。
よってフォレストが損得勘定をしない理由も、母からの教えが関係していると考えるのが自然でしょう。
見えてくる本当の理由
結論をいってしまうと、フォレストが損得勘定をしない理由は「天国に行くため」にほかなりません。
天国とはもちろん、キリスト教が教えるところの死後の世界です。
キリスト教の最大の教えは「無償の愛」であり、フォレストの見返りを求めない行動はそれを体現しているものと見ることができます。
振り返ると母からの言葉には神に関するものが多くありました。
例えばこんな言葉。
神様は不思議な働きをする
フォレスト・ガンプ/配給会社 パラマウント映画
また彼女の死に際にはフォレストにこうアドバイスしています。
神様からの贈り物を活かして
フォレスト・ガンプ/配給会社 パラマウント映画
ちなみにキリスト教への信仰はアメリカでは一般的なことで、多くの人が日常的に祈りをささげたり聖書を読んだり教会に行ったりしています。
ダンもクリスマスの日にはフォレストにキリストの話をしていましたね。
その際に、ダンはキリスト教に対して懐疑的な言葉を放ちます。
するとフォレストはいつになく意気込んでこう言い返しました。
僕は天国に行きます
フォレスト・ガンプ/配給会社 パラマウント映画
フォレストが本当の意味で、神や天国といった複雑かつ抽象的なものを理解していたのかは分かりません。
しかし幼少のころから母に信仰の大切さを教えこまれ、天国がどんな場所よりも素敵なところだと教わってきたことは想像に難くないでしょう。
フォレストはそんな母からの教えをひたむきに守って生きているのです。
ジェニーの死因とアメリカの未来
最後にすこし視点を変えて、ジェニーの死因についても考察してみましょう。
それによって最終的には映画『フォレスト・ガンプ』が示すアメリカの未来が見えてくるはずです。
ジェニーの死因とは?
さて、作中ではジェニーが何の病気に患っていたのかが明確に語られることはありません。
しかしウィルス性の病気であること、医師にも治療法が分からないことをふまえるとジェニーが患った病気はエイズではないかと推測できます。
墓標を見ると彼女は1982年に亡くなっていました。
その少し前に、アメリカではエイズが大流行したのです。
主な原因にはフリーセックスや、麻薬を静脈注射するときの針の使い回しがあります。
どちらも当時のアメリカの若者たちのあいだではふつうに行われていたことでした。
作中ではジェニーもそれに近い生活をしていたことが描写されています。
このことからもジェニーがエイズだった可能性はかなり高いといえるでしょう。
小さなフォレストの運命は?
とすると気になるのがフォレストとジェニーの間にうまれた小さなフォレストの存在です。
おそらくジェニーは自分がエイズに感染しているとは知らずにフォレストを出産したのでしょう。
エイズは潜伏期間が数年以上になることもあり、ジェニーのような事例は数多く存在します。
ただし母親がエイズであったとしても、その子どもが必ずしもエイズになるとは限りません。
小さなフォレストがエイズに感染しているのか否か。
それは本作を見るだけでは分かりません。
というよりも実は「分からない」ということ自体がひとつのメッセージになっていると考えられるのです。
フォレストの存在はいわばアメリカの歴史そのものを象徴しています。
そして本作は同じフォレスト・ガンプという名前の子どもが、父親と同じようにスクールバスに乗りこむシーンで終わりました。
このラストシーンは父から子へ、過去から未来へと「世代交代」がなされたことを暗示しているのでしょう。
つまり小さなフォレストは「新しいアメリカ」を象徴する存在です。
アメリカが今後どうなっていくのか。
その問いには今でもまだ答えが出ていません。私たちの未来だってそうですよね。
小さなフォレストがエイズ感染しているかどうか、それが明確に語られなかった理由も実はここにあるのではないでしょうか。
チョコレートの箱と同じように未来は開けてみるまではわからないのです。