映画の序盤、マスコミに対する声明文について主人公に指示するシーンです。
主人公「低くも高くもなく、怒らず喜ばず(そんな声明文を書けと)?」
ラング「そうだ」
主人公「何者です?」引用:ゴーストライター/配給会社:日活
思わず吹き出して笑ってしまうラング。演技ではない、素の彼のように見えます。
これは、彼が自分は何者でもないことを理解していたということではないでしょうか。
政治に疎かった彼は、妻の助けがなければ現在の地位まで来るのが難しかったことを自覚していたはずです。
自分の意志で行ったという最近の政策は国際裁判にまでなり、自信を喪失している様子も。
ラングにはどんな時も笑顔を作れる一方、怒鳴り散らすなど、感情を制御できなくなる不安定な面もありました。
首相としての顔の裏側には、自身の実体がないことへの大きな不安があったのかもしれません。
そしてラストで撃たれ、本当に実体の無いもの(ゴースト)になるのです。
衝撃のラストと暗示されていた結末
ルースの秘密を暴いたあと、会場を後にする主人公。しかしその直後、彼もまた……。
あまりにも衝撃的な展開のまま、映画は幕を下ろします。そしてエンドロールでお気づきになった方も多いと思います。
主人公には名前がなく「ゴースト」とだけ記載されていることに。
彼は最初から最後まで、名前の無い存在でした。
何者でもない「ゴースト」
彼は自分について、こう言っています。
「真の作家じゃない」
引用:ゴーストライター/配給会社:日活
状況に流されるように行動し、どこか自信が無さそうな態度。そして、物語からのあっけない退場。
名前が無いことも含めて、この結末も暗示されていたのでしょう。
感情豊かなラングとは対照的な存在ながら、同じく儚い結末を迎えたのです。
主人公ゴーストの成し遂げたこと
ただしだからこそ、そんな彼が最後にとった行動は、映画の主人公として初めて一矢報いたシーンだったともいえます。
そうであれば、この場面にはただ空しい終わり方というだけでなく、少しだけ胸がすっとする救いのある場面ともいえるのではないでしょうか。
ゴーストたちの物語
この映画では、実は明確に答えが示されてはいません。あくまで真実は隠されたまま、幕が引かれます。
主人公が実際にどうなったかさえ、映し出されないのです。
ラストのシーンでは、灰色の空の下でたくさんの原稿が儚く無残に舞い散っていきます。
まるで体制や戦争といった大きなものに操られ、翻弄されるしかない人々を表しているかのようにも見えます。
これは、そんなゴーストたちの物語なのです。