これは子供達が本来知ってはいけないサンタクロースの現実です。
子供達はここでサンタクロースが決して綺麗事だけで成り立っているわけではないことを知ります。
大人達が守るべきもの
ここでサンタクロースの存在が「虚構」であること、即ち「メタフィクション」の構造がポーラー・エクスプレスの背骨にあることに気付かされます。
これはとても危険な行為で、描き方を間違えると子供達の夢を壊しかねず、作品自体の娯楽性も損なわれてしまう弊害があるのです。
では、だからといって子供達を白けさせるために作っているのかというとそうではありません。寧ろ逆で子供達の夢を必死に守ろうとしています。
そんなポーラー・エクスプレスの大人達が懸命に守るべきもの、それは何よりもサンタクロースを信じる子供達の「夢」ではないでしょうか。
本作の物語としての意味
ここから分かるポーラー・エクスプレスの物語の意味は「子供の心を持った大人」が「信じる心を持っている人」に向けて作った物語ということ。
本作ではその信じる心を持っている人が子供という形で描かれていますが、実際は信じる心を持っていれば大人でも子供でも構わないのです。
大事なのはあくまで「信じる心」なのであり、故にこそ車掌がヒーロー・ボーイに贈る言葉が「BELIEVE(信じる)」になるわけです。
サンタクロースが与えた「鈴」
子供達は最後に正真正銘のサンタクロースと出会い、そこで「鈴の音が聞こえるか?」という最後の試練が訪れます。
この鈴の意味は明確に語られません。
しかし、確かなことはサンタクロースの存在を信じられる者にのみ鈴の音が聞こえるということです。
主人公は最後にサンタクロースを本気で信じたときに初めてその音を聞くことが出来ました。
それは主人公がポーラー・エクスプレスの旅で得た様々な経験・試練によって「信じる心」を取り戻した証ではないでしょうか。
サンタクロースが残した手紙の意味
サンタクロースはポーラー・エクスプレスを降りた主人公に手紙を残します。以下の内容です。
ソリの席にあった。ポケットの穴は直して
引用:ポーラー・エクスプレス/配給会社:ワーナー・ブラザース
この手紙の意味は何でしょうか?
これまでの流れから考えると「信じる心を失わないで欲しい」というサンタクロースのお告げであるように見えます。
ポケットから鈴が落ちるというのはいつしかサンタクロースを信じる心が失われてしまうのではないか?という暗示と考えられないでしょうか。
人間は現実的な大人の常識を学ぶ内に信じる心がいつの間にか失われていき、記憶から忘れられていきます。それは仕方のないことです。
しかし、だからこそサンタクロースは主人公に「信じる心」だけは忘れないで欲しいという願いをこの手紙に込めたのではないかと。
そのように見ていくと、サンタクロースが一番伝えたいことは「信じる心を大人になっても失わないこと」の大切さである気がします。
だからこそこの『ポーラー・エクスプレス』は子供だけでなく大人からも受け入れられる深い魅力の備わった映画になっているのです。