しかも、グンセはギテクと同じ台湾カステラで失敗しています。

仲間になれるはずなのに、階上でキム一家がのほほんとしている間に下層同士が争うわけですから、ブラックユーモアを超えて「悲惨」という他はありません。

彼らの存在は、自分たちの寄生を知った厄介な存在である事も勿論ですが、自分たちより更に下がいた、という恐怖そのものだったのでしょう。

自分たちも今より更に下に落ちるかも知れないもう一段底があるのだ、という恐怖。

そんな中で事件は起きます。

怒りの裏側にあったもの

ギテクはなぜパク氏を刺殺したのでしょうか。

パク氏のグンセの臭いへの反応が、「貧乏人」と自分が言われたような気分になったからでしょうか。

それもあるでしょう。しかし、一見人の良さそうなパク氏と運転手としてのギテクのこれまでの会話などを思い返すと気がつくことがあります。

ギテクがパク氏に奥さん(チョ・ヨジョン)を愛してますよね、と運転中2度語りかけますが、パク氏は返事をしません

今のテーブルの下に隠れていた時には、もろに臭いの話を妻とします。

さらに、息子の誕生日のサプライズにインディアンの格好をさせます。(洪水のあとでギテクはものすごく下水臭かったはず)

パク氏に殺られる役を仕事としてやれと命じます。それを言われた時のギテクの表情に注目です。

つまり、ギテクはパク氏が自分を臭い貧乏人とみても構わないが、「人間として見ていない」と感じたのです。

外見を否定されることより人として否定されることの怒りでしょう。

それが許せなかったのです。自分たちより下層である「完地下」のグンセはこんなパク氏をリスペクトしていたのか!

恐怖に感じたグンセこんなパク氏を尊敬していたなんて。

娘ギジョンを刺しはしたが、瞬間グンセが可哀相にさえ思える、ここにもギテクの犯行の引き金の1つがありそうです。

なんともやりきれない格差の悲劇の象徴でしょう。

ギウの倒れた場所とダヘの行動

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ダヘの誕生日パーティーが始まろうとした時、ギウは山水景石を持って完地下のグンセの様子を見に行きます。

しかし、彼はグンセの逆襲に遭います。シェルターから地下貯蔵庫まで逃げてきますが、そこで捕まり、頭を石で強打され、昏倒します。

ギウがグンセに襲われて倒れた場所は地下貯蔵庫。梅酒棚のあるところです。

彼がそこで倒れたのは「完地下のグンセに」「幸運の守り神である山水景石で殴られ」「瀕死の重傷を負う」

「ギウから流れた血が割れた瓶から流れ出た高級梅酒と混ざり合う」という一連のアクションに意味があると思えます。

それはギウの人生はせいぜい浮かび上がれて完地下から地下の貯蔵庫まで地上には行けない、という限界の示唆と読み取れます。

一方、事件のさなかにギウを背負って地下貯蔵庫から救い出したのはダヘでした。ダヘはギウを愛していました

この血みどろの争いの中で、救われるほのかなメッセージがここにあります。「愛」は格差を超えるのです。例え一瞬でも。

事件の全貌を知ったダヘはその後ギウとどうなったかは描かれません。パク氏を失ったダヘ一家のその後は描かれません。

ギウの行動とラストが示すもの

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ダヘの機転でギウは何とか助かり、執行猶予付きの刑になります。

ギウが「山水景石」にすがって実現しようとした「寄生計画」は失敗に終わりました。

ギテクは事件後姿を隠し「完地下」の住人になっています。「半地下から更に下」の人生を送ることで自分を罰しようとしたのでしょうか。

そしてギウは父に手紙を書きます。僕は計画を立てることにしたと。それは金を稼いであの家を買いとり、地下から父を出すこと。

「寄生する計画」ではなく、社会の中で自らのチカラで金を儲けその金で家を買いとる、というのです。

そしてあの「山水景石」を川に流します

もう幸運だけに(他人に)頼る計画は止めだ、地道に金を稼いでいく、だからもう「他力本願の幸運の石」は必要ないと。

しかし、観客は思うでしょう。執行猶予が付いたとは言え大学にも行っていない過去があるギウがあの家を買い取れるだけの金を稼げるのか、と。

不可能でしょう。そこに父を思うギウの優しさと、未来に向けて歩みだした彼の先にある果てしのない絶望を思い観客は慄然とし涙するでしょう。

悪役がいないのが更に哀しい

映画チラシ『パラサイト半地下の家族』5枚セット+おまけ最新映画チラシ3枚 ポン・ジュノ

この映画には、まだまだ考察出来る点がたくさんあります。2度3度観ていく毎に新しい考察を楽しめるでしょう。

計算された脚本、演出、俳優の演技、美術、撮影、どれをとっても超一流の作品「パラサイト 半地下の家族」。

これほどに映画という芸術を体現化した作品は少ないともいえるのではないでしょうか。

悪い人が誰も出てこず、すべて社会の犠牲者ともいえる設定は、ヒールが登場する作品よりさらに胸を締め付けるのです。

ポン・ジュノ監督のこの言葉でこの稿を締めくくりましょう。

彼らは初めから“寄生虫”であったわけではありません。

彼らは私たちの隣人で、友人で、そして同僚だったのにも関わらず、絶壁の端に押しやられてしまっただけです。

回避不能な出来事に陥っていく、普通の人々を描いたこの映画は「道化師のいないコメディ」「悪役のいない悲劇」であり、