誠人の好きな人を好きになろうとし、誠人とキスをすることでその「愛」を少しでも理解し、手に入れようとしたのでしょう。

ずっと「点」でしかなかった静流の行動・言動が全て「線」で繋がり、ここに漸く静流という女性の人物像がくっきり浮かび上がります。

静流の病気は残酷な現実という「闇」のみならず、彼女の人となりの本質という「真実」をも誠人にもたらしたのです。

陰極まって陽生ず

陰陽珠玉

静流の個展へと足を運んだ誠人、そこで彼は全く知らない大人の静流を見ることになるのです。

全ての写真を見終えたとき、誠人は感極まったように涙を流します。何故こんなに涙を流したのでしょうか?

キスした頃の写真を見て思わず感情が溢れたからと思われがちですが、そうではありません。

静流が残した写真の余りの眩しさ、輝きといった「光」がもたらすカタルシスに思わず飲み込まれてしまったのです。

様々な絶望という名の「闇」を経験し、乗り越えてきた誠人が最後にたどり着いたのは正に「真実の光」でした。

これを仏教では「陰極まって陽生ず」といい、様々な艱難辛苦を経験した誠人と静流がたどり着いた至高の境地であったのではないでしょうか。

手紙に込められた心情

個展を見終えた誠人はみゆきに静流からの残りの手紙も送るように頼み、日本へと帰国します。

ある朝、誠人の郵便受けに入っていた手紙には静流の率直な思いが込められていましたが、最後にはこう綴られていました。

さよなら、またどこかで会いましょう

引用:ただ、君を愛してる/配給会社:東映

言葉自体は月並みで大人しいですが、とても強いです。過酷な運命を抱えた人の言葉とは思えません。

これはきっと静流が誠人の隣に立って一緒に歩めるほどの魅力を持った大人の女性になりたいという覚悟と決意なのでしょう。

静流は子供じみた言動や行動による「嘘」で誠人を沢山振り回しましたが、一度として誠人には「弱さ」「脆さ」を見せたことがありません。

この手紙には「優しく強い大人の女性になり、再び誠人の隣に立ちたい」という強い思いが込められていたのではないでしょうか。

誠人が嘘につきあう理由

プライベートバンクの嘘と真実

静流が付いた嘘はあくまでも自身の「弱さ」「脆さ」を愛する誠人には見せたくないという誠人を慮っての優しさ故でありました。

ここまで行くともはや「愛」なのです。それも単なる男女の愛=エロスではなく無償の愛=アガペーとすら思える強く深いレベルの愛。

静流は誠人を愛するが故に離れ、弱さを見せずに独り立ちしてまでコンプレックスと向き合い、個展や手紙を愛の証として残してくれました。

誠人は静流の嘘やコンプレックスも含む全てを受け入れ、静流という強く優しいたった一人の女性と向き合い、「愛する」と決めたのです。

それがきっと誠人が静流の嘘につきあうと決めた理由なのではないでしょうか。

ただ、君を愛してる

恋愛写真

大塚愛の「恋愛写真」という主題歌の歌詞にある本タイトルは凄くシンプルながら深いと気付かされます。

愛とは決してキラキラと輝く「光」だけではなく、絶対に避けられない運命の壁や別れといった「闇」もまた存在するのです。

愛では死という絶対的運命を避けることは出来ないし、時に裏切りや別れ、嘘という絶望すら経験しなければなりません。

しかし、そういう様々な「闇」から逃げることなく向き合い、乗り越えた先にこそ真の「光」が、そして「愛」が存在する。

このように、本作は誠人と静流の生き様を通して「光」と「闇」というモチーフを効果的に表現しています。

そうした人間の愛のエッセンスが詰まっており、だからこそ寂しく切なく、また同時に温かく優しい名作になっているのではないでしょうか。