「音楽をつくって欲しい」「ライブをして欲しい」という要求を続けて、せいいちの言い分には耳を貸しません。
そしてついには「せいいちの音楽のために」と体を売ったのです。当然、せいいち本人はそんなことを望んでいたわけではありませんでした。
一方のせいいちも苦悩を一人で抱えこみ、弱音を吐くことも相談をすることもありません。
ツチダと喧嘩したあともアルバイトを掛け持ちするなど自分だけで突っ走っていきました。
同棲しているツチダへの思いやりに欠けた行為だといってもいいでしょう。印象的なのは、せいいちが別れを切り出した後の二人のやり取りです。
「そうなの、いつから?」
「なんか、最近のおまえのこと見てたら」
「何も見てなかったじゃん!」
引用:南瓜とマヨネーズ/配給会社:S・D・P
ツチダの言い分はもっともです。アルバイトをはじめてからせいいちは家にいる時間が短くツチダを見ていたとは思えません。
おそらくは会話だってほとんどなかったはずです。互いが互いと真剣に向き合うことをしようとしなかった。
つまり二人は、自分にしか分からない言語を押しつけあう「犬と猫」になっていたのです。
コミュニケーション不全を乗り越える
そんなコミュニケーション不全を解決してくれたのが劇中歌『ヒゲちゃん』でした。
良い音楽には価値観や言語の壁を乗り越える力があります。ミュージシャンであるせいいちにとって、この力は最大の武器だともいえるでしょう。
逆にいえばスランプに陥ったことで、せいいちはツチダとコミュニケーションを取る手段を失っていたのです。
しかし最後には音楽の力を取り戻して、目の前で泣いている猫(ツチダ)に向けてこう歌うことができました。
「三回まわってにゃあと泣く にゃあ にゃあ」
引用:南瓜とマヨネーズ/配給会社:S・D・P
不器用で口下手なせいいちが精一杯の愛情と思いやりを示したのです。ここからツチダと新しい関係を築こうとしたせいいちの心境が伺えます。
ツチダはいつハギオとの別れを決めたのか?
さて、今度はツチダとハギオの別れについて考察していきましょう。せいいちと別居してまもなくツチダはハギオに対して別れを切り出します。
「もう会わない そうしよ?」
引用:南瓜とマヨネーズ/配給会社:S・D・P
ところで、ツチダはいつハギオと別れることを決めたのでしょうか。少なくともハギオと居酒屋で会う前には決意していたと考えるのが自然です。
なぜならツチダはハギオと会うためにせいいちが残したパーカーを着て出かけています。
さらにその前のシーンにまで遡ってみましょう。ツチダはせいいちとの思い出にひたりながらパーカーに顔を埋めています。
それからふと顔をあげて自らの左腕を叩きました。腕にこびりついているのは潰れた蚊と赤い血です。
シーンの流れを見るに、この蚊はハギオを象徴するものだと考えられます。女性に悪い男がつきまとうことを俗に「悪い虫がつく」といいますね。
自分は金を出さず、不特定多数の女性と遊んでいるハギオは悪い虫の代表のような男です。
つまり蚊を殺したシーンこそ、ツチダが決心した瞬間を表しているのではないでしょうか。
ツチダが別れを決めた理由とは?
では、なぜツチダはハギオとの別れを決めたのでしょうか。ここからはより詳しくツチダの心理について考えてみましょう。
結論からいいますと、ツチダがハギオと別れを決めた理由は大きく次の二つです。
- 不安を埋め合わせる必要がなくなった
- カナコからのアドバイス
どういうことか。それぞれの理由について掘り下げて説明をしていきます。
不安を埋め合わせる必要がなくなった
まず一つ目の理由が「不安を埋め合わせる必要がなくなった」というもの。
ツチダがハギオと再会したのは、ちょうどせいいちとのすれ違いがはじまったころでした。