どんなに金をかけて育成し指示された通りに動いく暗殺者達とて所詮「人間」であり「機械」ではありません。
無思考で機械的に人殺しを是とし、人間性を奪ってしまったことがボーンと他の暗殺者達の決定的な差となりました。
トレッドストーン作戦は「人間性」を失わず自分と向き合い戦い続けたボーンに負ける形で失敗に終わったのです。
ボーンが成し遂げようとしたこと
また、ボーンとコンクリンの間で非常に興味深いやり取りがありました。
修羅の連続に疲れ果て、全ての記憶を取り戻したボーンはこう言い放ちます。
ジェイソン・ボーンは死んだ。聞こえるか?溺死したんだ。そう報告するんだ
引用:ボーン・アイデンティティー/配給会社:ユニバーサル・ピクチャーズ
それに対するコンクリンの返答がこちらです。
逃げられると?
引用:ボーン・アイデンティティー/配給会社:ユニバーサル・ピクチャーズ
非常に短いですが、「ボーン・アイデンティティー」のエッセンスがしっかり詰まったやり取りではないでしょうか。
ボーンは自身の「アイデンティティー(自己同一性)」を取り戻すのみならず、「暗殺者」という運命からも脱却を図ろうとしたのです。
ラストで「人間性」を取り戻し暗殺者ジェイソン・ボーンの「運命」を乗り越えたボーンのキャラは恋人マリーとの再会で完成を迎えました。
「人間」と「ヒーロー」
ここまでの流れを踏まえた上で、「ボーン・アイデンティティー」とはどういう作品だったのか?
それはジェイソン・ボーンを通して「人間」と「ヒーロー」を問う物語だったのではないでしょうか。
ボーンはプロの暗殺者としての高い能力を「ヒーロー性」として与えられながらも自身の「人間性」について葛藤していました。
即ち如何に浮世離れしたプロの工作員の中に誰もが共感出来る等身大の人間性を描くことが出来るか?という挑戦だったのでしょう。
それに積極果敢に挑んだ本作は見事にそれまでのスパイ映画にはない新しいスパイヒーローの確立を成し遂げたのです。
本作に残った幾つかの謎
さて、「ボーン・アイデンティティー」にはトレッドストーン作戦失敗の原因の他にも謎が幾つか残りました。
本筋に直接の影響こそないものの、見逃せない部分なので是非考察してみましょう。
頭痛の原因
その一つがボーンの頭痛の原因です。
これに関してはボーンのみならず、彼が終盤で戦った教授もまた意味深なことを最期につぶやいていました。
夜運転してると頭が割れそうになる。ヘッドライトが…
引用:ボーン・アイデンティティー/配給会社:ユニバーサル・ピクチャーズ
答えは明示されないままでしたが、頭痛の原因としては頭にチップが埋め込まれていたという解釈があるようです。
しかし、ボーンは次作以降でも記憶の断片や悪夢がフラッシュバックする時に頭痛を起こす描写が度々あります。
なので頭痛の原因は単純に心的外傷後ストレス障害(PTSD)かそれに類似する病気かもしれません。
マイクロカプセルを埋め込んだ犯人の正体
もう一つの謎が冒頭で示されたボーンの体にマイクロカプセルを誰が埋めたのか?です。
ご丁寧にスイスの銀行口座番号まで記載されていますが、一番怪しいのはやはり直属の上司コンクリンでしょうか。
終盤のやり取りでも、その場に居ないと知らない筈のウォンボシ暗殺の真相の全容を把握すらしています。
となると、コンクリンがボーンの体にカプセルを埋め込み、本部に来るようヒントを散りばめたという線が一番近そうです。
まとめ
「ボーン・アイデンティティー」はそれまでのスパイ映画のイメージをガラリと刷新する革命作となりました。
内向性の強い主人公が極めて足場の不安定な中で如何にして自身の「人間性」を取り戻し、運命を乗り越えるのか?
文芸・アクションの双方において時代の芯を捉え、以後人気シリーズが出る程の大人気作となったのもうなずけます。
この記事で考察してきたことを踏まえて見直してみると、また「ボーン」シリーズを違った視点で楽しめるのではないでしょうか。