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かつて99年~00年代初頭にかけてインターネット黎明期にまことしやかに囁かれた「犬鳴村」の都市伝説。
「日本最凶の心霊スポット」と噂に名高い本作を手がけるのは「呪怨」シリーズに代表される日本ホラー映画のスペシャリスト・清水崇監督。
入魂の力作として描かれた本作はそのフィルムに並々ならぬ情念が籠もっており、様々なメッセージを伝えてくれます。
村の祟りによって謎の死を遂げる人達、そして己の残酷な運命に巻き込まれ翻弄されていく森田奏と肉親達。
今回はラストシーンの意味を中心に村人の正体、わらしべ唄の真相、伝えたいテーマも合わせて考察していきましょう。
都市伝説の再構築
「犬鳴村」を語る上で外せないのはそもそも本作の根幹が都市伝説である、ということでしょう。
SNSをはじめインターネットによりかつてまことしやかに語られた噂が無根拠な嘘八百であることは誰にも明白です。
インフルエンサー業の方々が検証動画を上げる時代になっており、都市伝説の検証も易々と行われるようになりました。
そういう時代性を承知で尚本作はその都市伝説をしっかり物語として再構築しているのが大きな特徴ではないでしょうか。
では、その都市伝説の再構築が如何にして行われているのかを見ていきましょう。
インフルエンサー視点でのメタフィクション
「犬鳴村」の冒頭はYouTuber・西野明菜と森田悠真の心霊スポット検証という今時のやり方から物語を開始しています。
狙いとしては「今日の若者」の代表であるインフルエンサーを入れた方がスムーズに入りやすいからですが、無論それだけではありません。
西野明菜は「日常世界」の象徴であり、彼女と悠真がこの「犬鳴村」の都市伝説を現代風に再構築するきっかけを与えているのです。
これにより、犬鳴村の都市伝説そのものが「今日の物語」として成立することに説得力を与えてくれているのではないでしょうか。
メタフィクションによる物語の再構築自体は珍しくないですが、冒頭で印象づけることで作品世界にスムーズに入れるように配慮がなされています。
「死」の象徴
「犬鳴村」の中で大きく目立つのが主人公・奏(悠真の妹)の勤務先の病院、事件の元凶犬鳴村、そして奏の祖父母の家です。
本作ではこれらはいずれも「死」の匂いが漂う場所として扱われています。特に奏の務める病院はその象徴といえます。
犬鳴村周辺の次に霊が現れるのは奏の務める病院で、患者・遼太郎の母が必ず出現し、更に山野辺医師が溺死を遂げた場です。
また、奏の祖母の家の墓には必ず先祖の幽霊が出ますし、犬鳴峠周辺では必ず不可解な死が見受けられます。
こうした「死」の象徴であることがはっきりと明示されている所もまた本作の魅力の1つになっているのでしょう。
「境界」としての犬鳴峠
上記の特徴を踏まえ、犬鳴峠は本作における「境界」としての役割を果たしています。
赤い橋にある電話ボックスは夜中2時に必ず鳴り響き、応対すると村人或いは大切な人の「救い」の声が聞こえるのです。
また、犬鳴村がダム建設によって水没した村であるという設定から「溺死」という設定・描写が生まれています。
極めつけは昼間落書きで埋め尽くされたブロックで塞がれているのに、真夜中になるとブロックが全くないトンネルなど。
こうした犬鳴峠を巡る数々の描写に見えるのは「境界」の象徴であるということです。
溺死、水没という設定からは「三途の川」が自然と浮かびますし、電話ボックスは「死霊の呼び声」の場所に見えます。
そして、昼と夜で姿を変えるトンネルは「この世」と「あの世」を繋ぐ「境界」そのものではないでしょうか。
このように本作の舞台は「生と死」「あの世とこの世」との「境界」の象徴であると強く意識されていることが窺えます。
犬鳴村、その実態
犬鳴村は都市伝説ででっち上げられた存在ですが、本作ではそれがどのように実態として描かれたのでしょうか?
ここでは本作における犬鳴村の実態を是非考察してみましょう。