ストーリー・ライティング用語でそれは「フック」。読者や鑑賞者を魚のように釣り上げる「釣り針」を意味します。
アナ雪が大ヒットしたのも、まさに作品の物語自体が世界中の鑑賞者を魚のようにずっとフックして離さなかったからでしょう。
優れた映画体験が出来ること
ミルスタイン氏は、映画は観客との対話であるという信念のもと、受け手への敬意を大切にして映画を作っているといいます。
作り手が1つのメッセージを押し付けるのではなく、観た人たちがさまざまに作品を解釈できるように作っているそうです。
それに対し、金儲けのための映画はありがちなテーマを押し付けるだけであり、そこには何の対話もありません。
ミルスタイン氏はそれを「観客をバカにするような映画だ」と批判しています。
物語上のフックがあり、さまざまな解釈を呼ぶ映画とはひとえに「優れた映画体験」を多くの人にもたらすものでしょう。
日本でもアナ雪の劇場リピーターが数多くいました。それもまるで小旅行に行くかのように映画を体験したかったからではないでしょうか。
本作の空前の大ヒットの核心には、ミルスタイン氏も挙げるこの「優れた映画体験」があるように思われます。
エルサとアナの関係性
姉妹関係を象徴する絶妙な邦題
ご存知の通り本作の原題は『Frozen』であり、日本ではそれが『アナと雪の女王』に改題されました。
しかしこの邦題はエルサとアナの姉妹を表すのに絶妙なタイトルだといえます。
『アナと雪の女王』という題からは2人が年齢も立場も違う人のような印象を受けます。しかし観るとすぐに2人が姉妹だと分かるのです。
そこで多くの人はこの邦題に込められた真意に気づくのではないでしょうか。姉妹でありながらその間には大きなギャップがあるということ。
または血を分けた2人が別人のように引き裂かれた悲劇のダブルヒロインであることを少なからず感じ取ることでしょう。
この素晴らしい邦題は、映画の核心部を観客に伝えるメタファーなのです。
2人は誤解が生んだ溝にはまり込んでいった
エルサはアナを傷つけたトラウマを背負い、アナや他の皆にも距離を置かれていると感じています。
一方アナは、氷の城で起きた不慮の事故をエルサに攻撃されたと勘違いをして姉を愛する心を見失ってしまいます。
会わない時間・交わされない会話が溝を深め、お互いを大切に想う心さえも隠してしまったのです。
姉妹の間にある氷の正体は人間間の大切なコミュニケーションに違いありません。
人間関係の修復には、何よりも話し合いで誤解を解いたり譲歩をし合ったりすることが必要不可欠なのです。
姉妹をつないだオラフ
この姉妹の誤解を解かしてくれたのは「雪だるまのオラフ」でした。
オラフは幼い頃に2人が作った雪だるまです。本編では語られていませんが、オラフは姉妹にとってかけがえのない存在なのです。
「アナと雪の女王/家族の思い出」では、閉じ込められているエルサに、毎年アナがオラフのクリスマスカードをそっと渡しています。
オラフは劇中で傷ついたアナに「愛」とは何かを伝えています。
「愛を教えてあげるよ」
「君に必要なことを言われなくてもしてくれる人だよ」
引用:アナと雪の女王/配給会社:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
そこでアナはクリストフからの愛を感じるとともに、姉エルサに再びこころを寄せてゆくようになります。