メンバーは音楽的に幅広いバックグラウンドを持っており、今のオーガニックな気持ちがサウンドに現れたと語っています。
ですがロックであれポップであれ表現形態は違っていてもリンキン・パークのサウンドであることに変わりはありませんでした。
音楽はポップだから、ロックだからとジャンルで「セルアウトだ」「本物の音楽だ」と分けられるのではなく、そこにアーティストの伝えたいメッセージが、伝えたい音があるのかどうかで決まるのです。
論争が巻き起こったポップ軽視、ロック神聖視をこの映画は表現しているのではなく、この映画はアリーとジャクソンの姿を通してこの事実を伝えたかったのだ、と考えます。
実在するアーティストたちに見られる闇
この映画ではジャクソンがロックヒーローの典型的な姿で描かれていると述べましたが、実際にジャクソンのような運命を辿ってしまったアーティストも実在しました。
カート・コバーン
先にも少し述べましたが、ジャクソンのイメージソースになっているカート・コバーンは空前のグランジムーヴメントを巻き起こしたバンド、ニルヴァーナのボーカリストです。
カリスマ的な人気を誇り、彼の服装は”グランジファッション”として流行しました。アンダーグラウンドをルーツに持ち、そこに信念を持ってもいました。
世界的な人気を得たことにカートは戸惑いを隠せず、商業的成功が自分の信念を裏切っていると考えるようになります。
これは上段で述べたような「セルアウト」という考えが影響してることは明らかです。
大ヒットしたアルバム「Nevermind」はこれまでになかったメジャー志向を取り入れたアルバム。
そしてそれがヒットしてしまったことによってカートは自分は「セルアウト」な音楽を作ってしまったと思い込むようになり、精神が不安定になっていきます。
もともと鬱病を患い、アルコールや薬物依存に悩まされていたカートは最終的には幼い娘を残してショットガンで自殺してしまうのです。
彼の死はいまだに映画や小説などで取り上げられています。
クリス・コーネル
4オクターブの歌声を持つサウンドガーデンのヴォーカリスト、クリス・コーネルもまた薬物依存とアルコール依存、そして精神的問題に苦しんだロックカリスマでした。
飾らない人柄がアーティストの間でも評判で幅広い交友関係があったクリスも、2017年ツアーの最中に自殺しています。
チェスター・ベニントン
米国のロックバンド、リンキン・パークのチェスターも同じ運命を辿りました。
彼は幼いころに受けた性的虐待という壮絶な体験までを公表していました。
その影響か若いうちからアルコールや薬物依存に陥り、そのままでは破滅しかない人生を歩んでいたといいます。
ところがリンキン・パークのメンバーと出会い、メンバー全員が親友だといって支えてくれる彼らの存在に救われたと語っていました。
また愛する妻や子供の存在も彼の希望になっていたことでしょう。
それでもやはり心の傷からくる精神的な問題に悩まされ続け、時には再びアルコールや薬物に手を出すことがあるなど苦しみは癒えることはありませんでした。
彼もまた、親友だったクリス・コーネルの後を追うようにクリスの死から約2か月後、自らの手で人生に幕を下ろしました。
終わりに
ロックスターの典型的な姿を描いたジャクソンは破滅に向かって突き進んでいき、最後には死を選びます。
ここで紹介した実在のロックスターたちも同じ運命を歩みました。
この映画は、時代の移り変わりを示しているといいましたが、ロックからポップスの移り変わりだけでなく、これからの時代のロックの在り方も問われているのかもしれません。
この映画はアリーとジャクソンを通して愛の在り方、そして音楽の在り方についてのそれぞれの心に問題提起する、そんな作品であるように思います。