さて、監督の狙いが整理できたところで、主な登場人物に与えられた役目を通してこの映画を考えてみましょう。
ジョジョはなぜヒトラー・ユーゲントに?
まずスカーレット・ヨハンソンが演じたジョジョの母ロージー。
彼女は反ナチ運動に加わっている芯の強さを持つ一方、自由奔放で常に明るく、最大の愛をジョジョに注いでいます。
反ナチのロージーはヒトラーに無邪気に心酔しているジョジョを何故ヒトラー・ユーゲントに入隊させたのでしょう。
これは10歳になった子供は法律で入隊が義務付けられていたから。ロージーには逆らえなかった事態でした。
ロージーは愛と自由の象徴1号
制服を着て無邪気に喜ぶジョジョを、ロージーはさまざまな彼女なりのやり方で「本物」になってしまわないよう工夫します。
当時としてはファッショナブルな服装で街に出たり、ジョジョとダンスを踊ったり、この映画の愛と自由の象徴の1つと捉えられます。
その大きな一つがエルサを匿うことだったのではないか、と考察します。(その真意はエルサの項で説明します)
ロージーがジョジョに言います。
愛は最強の力よ。
引用:ジョジョ・ラビット/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
この言葉こそ、母ロージーのすべてを物語っているといえるでしょう。
ユダヤ娘エルサ(トマシン・マッケンジー)
ジョジョには亡くなった姉がいました。エルサと同級生だったようです。
ロージーはユダヤ人の彼女を自宅に匿います。なぜでしょう。
ジョジョの将来を託した
1つは彼女を自分の娘の代わりと見ていたからでしょう。
そして彼女の聡明さを持ってジョジョに現実を見せつつ理解させて正しい事を教えて貰いたかったのではないでしょうか。
本来それは亡くなった姉の役割だったのでしょう。
ロージーは反ナチ運動で自分がひょっとしたらどうなるか分からないことも考えての行動だったのではないかと推測できるのです。
素直で優しいジョジョにエルサはぴったり
母ロージーはジョジョがとても素直で優しい子供であることは分かっています。
エルサとの交流を通してジョジョはきっと愛と寛容を学び取ってくれる、と確信していたのではないでしょうか。
そして万が一の時も、エルサはジョジョを見つめていてくれる、それがロージーがエルサを匿った真意だったのではないかと思われるのです。
10歳の男の子なりの恋心が生まれてくることもロージーは計算していたのかもしれません。
当然、ジョジョにいずれはこの家にユダヤ人の娘がいる、ということを明かすつもりだったのでしょう。
エルサはこの映画の愛と自由の象徴2号とでもいえる存在です。
キャプテンK(サム・ロックウェル)
まったくナチの将官らしくないクレンツェンドルフ大尉は、実はこの映画において1番「愛と寛容」を「体現」していると読めます。
ふざけているようで実は人間愛の象徴では?
ジョジョがヒトラー・ユーゲントに入隊し、初めての訓練キャンプで出会うのが教官のクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)。
彼は前線で片目を失う怪我を負い、今は子供相手の教官という立場で、もうドイツの負けは近いと分かっていてやさぐれています。
彼は全くナチらしくない将校で、ナチにおける良心の象徴として描かれています。
ジョジョの「人生の教官」
同時に、成長していくジョジョに対する本物の「人生」の教官としての立場が見えてきます。
ゲシュタポがジョジョの家に捜索に来た時に、とっさにジョジョの姉に化けたエルサのパスポートの嘘を見逃します。
その後で机の上にあったナイフを大尉がさっと持ち去るシーン。さりげないようでいて大変な意味をもつと思われます。
派手な衣装に身を包んで最後の戦いに挑み、自分は捕まるもののジョジョを逃がします。
本当の勇気とは何か、狂気に抗うとはどういうことか。男とは何か。
ジョジョに対する実践を伴った「人生の教官」として描かれていると見て取れます。
彼もナチとはいえ、愛と自由の象徴3号の立ち位置といって良いのではないでしょうか。
アドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)
ジョジョのイマジナリーフレンド(想像上の友人)であるアドルフは、夢見がちな少年のもうひとりのジョジョに他なりません。