エジプトの伝説は「ある香料を加える事で究極の香水作りができる」ことを示唆します。
そして、ジャンは13種類目の香料が謎であることを知ります。
究極の香水作りのエッセンス:初恋の人の香り
ジャンが選んだ13番目の女性はローラでした。
ローラは美しく、最初の少女の匂いを思い出させる要素があったと考えられます。
13番目の香りに最も相応しいのは、自我に目覚める契機となった最初の女性の匂いです。
しかし、それは入手不可能です。
そこでグラースに向かう途中で出会ったローラが特別な意味を持ちます。究極の香水作りの契機となった匂いを彷彿とさせる香り。
最後までローラを取っておいたことの意味を考えてしまいます。
ローラを選んだ意味を考えると、「初恋の香り」が13番目のエッセンスといえるのではないでしょうか。
12種類の組み合わせと調合のバランス
香水の匂いは時間の経過と共にトップノート、ミドルノート、ラストノートと3段階で変化します。
第一印象のトップ、中心の香りのミドル、そして余韻のラスト。それぞれに適切な香りが存在します。
ジャンはその香水生成の理論を頭に入れていました。
ただ襲いやすい女性を選んでいた訳ではなく、完成形をイメージして収集していたと考えられます。
グラースの貴族たちが連続殺人犯に対して破門通告を宣言している時を思い出してください。
ジャンは12種類の香料を巧みに組み合わせて調合を済ませていました。
収集した女性の香りからヘッド、ハート、ベースの組み合わせをする技術には驚嘆せざるを得ません。
「匂い」に対する文化的な差異
欧米とアラビア文化圏の「匂い」観
本作を考察する上で異なる文化圏の「体臭」に対する考え方に対して触れておきます。
非言語コミュニケーションとしての「匂い」や体臭に対する価値観は文化間で異なります (ジョリー幸子、2010)。
欧米圏(特にキリスト教文化圏)は体臭をプライベートなものと考え、デオドラント製品を発達させました。
一方、アラビア・アフリカ圏では体臭を生命力の象徴と捉え、体臭を活かす文化を発達させました。
ジャンが「匂い」に個性を求める理由はこの点を踏まえると分かり易いかもしれません。
日本とフランスの「匂い」観
日本とフランスを対比してみましょう。
「体臭+香水=人の匂い…フランスの香り文化に魅了され」は、体臭や匂いを大切にするフランスの香り文化を教えてくれます。
一方、日本は消臭を重視するようです。消臭商品がたくさんありますね。
とはいえ、日本人でも匂いで異性との相性を推し量る人もいるでしょう。
たしかに匂いは相性のバロメーターです。
もしジャンの体臭が果実売りの少女にとって魅力的であれば、ジャンと少女との間で恋が生まれたかもしれません。
18世紀フランスにおける公衆衛生
都市の下水事情
当時のパリ社会状況にも目を向けましょう。
重要なことは慢性的な水不足に直面していたこと、下水処理設備が整っていなかったことです。
慢性的な水不足は地理的に生活用水の確保が難しかったことも要因ですが、それだけではありません。
王族や貴族が利水権を独占してました。庶民向けの上下水道の整備が未発達であったようです。
さらに当時、汚水が流れる用水路が街中でむき出しに配置されていました。