引用元:https://www.amazon.co.jp/dp/B017X6JYHI/?tag=cinema-notes-22
今回ご紹介するのは「しあわせのパン」は2011年に公開された三島有紀子さん監督の邦画です。
多くの人にとって決して懐かしい景色ではないはずなのに、どこかそういうノスタルジックな気持ちになってしまう不思議な魅力を秘めた本作。
これは2006年に公開された大ヒット作「かもめ食堂」から始まった、邦画の新たな潮流でしょう。
ただこの作品が「かもめ食堂」と違う点は、穏やかで平穏な日々だけが描かれているわけではないという点です。
主人公である「りえさん」が「影」をまとっているというところは、物語を紐解いていくのに重要なポイントとなっています。
主人公ふたりが、お互いを他人行儀に「くん/さん」付けで呼び合うのにも理由がありそうです。
今回はそれを軸として、本作の主題を考察していきたいと思います。
過去、りえさんに何があったのか?
東京での生活でボロボロになっていたりえさん
りえさんのまとう柔和な雰囲気から察するに、東京での忙しない暮らしは彼女にはまったく合わなかったのでしょう。
あまりの痛々しさに近しい人が手を差し伸べるほどにまで、りえさんはボロボロにすり減ってしまっていたはずです。
ふとした瞬間に見せる、憂いに満ちた表情
作中では言及されていませんが、りえさんは東京での生活で心に傷を負ってしまったのではないかと推測します。
寄る辺ない毎日の中で彼女は次第に何かに蝕まれていったのではないでしょうか。
序盤において、水縞くんと比べるとりえさんは心の底から笑えていないような、そして時折表情を失ったかのような顔をも見せます。
その根拠が、以前からりえさんの状態を知っていたであろう水縞くんが発した次の言葉によって分かります。
「無理をして笑わなくていいよ」
引用元:しあわせのパン/配給会社:アスミック・エース
夫ではあるけれど…。
どことなくよそよそしい距離感
水縞夫婦はお互いの呼び方に「くん/さん」という敬称がついているだけでなく、りえさんに至っては夫を下の名前ではなく苗字で呼びます。
夫婦の間で「くん/さん」を付けて呼び合うこと自体はそこまで珍しいことではありません。
特にお子さんのいらっしゃらないご夫婦はお互いを「パパ/ママ」「お父さん/お母さん」などと呼ぶこともありません。
つまり、お付き合いしていたころの名残とも推測できます。
ですがパートナーを苗字で呼ぶことに関してはかなりのよそよそしさがあるのではないでしょうか。
戸籍上はりえさんも同じ苗字になっているはずなのですから。
ひょっとしたら、まわりには夫婦と告げているもののあえて籍を入れていない可能性も考えられます。
ふたりの間にある埋められない溝
水縞くんとりえさんは出身地がお互いに違うということは、作中からも明らかです。
これがふたりの間の「溝」の正体であると考えらるのではないでしょうか。
その根拠は、夏の来客である「香織さん」の台詞です。まるで北海道の人間と東京の人間は決してわかり合えないといわんばかりの表現でした。