もし本当にゴッホに夜空がこのように見えていたとしたら…

彼はある意味でやはり普通とは違う感性の持ち主だったのでしょう。

彼の感性は芸術として昇華されましたが、ひとりの人間としての周囲の理解は得難かったかもしれません。

才に恵まれたにも関わらず、不遇で孤独だった芸術家。

そのようなゴッホ像が浸透していることを踏まえ、今度は主人公ギルに焦点を当てていきましょう。

過去に焦がれる変わり者、ギル

 Midnight in Paris (Music from the Motion Picture)

不思議なタイムスリップを体験する主人公、ギル。

小説家志望でちょっと夢見がちな彼のキャラクターを紐解きます。

過去への憧れ

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ハリウッドで脚本家として成功しているものの、ギルは小説への夢を諦められません。

婚約者とパリ旅行で幸せムードかと思いきや、なんだかその関係の雲行きも怪しげです。

雨降る古き良きパリへの憧憬を抱くギルは周囲からはちょっと浮いた存在。

映画ではコミカルに描かれていますが、彼は親しいはずの人からの理解を得られずに孤独を抱えています。

“lunatic”と呼ばれるギル

タイムスリップをしてからは、いよいよ婚約者やその周囲の人々から変わり者扱いをされてしまいます。

偉人の話をギルがした際、婚約者のイネスは彼のことを“lunatic”と表現しました。

“lunatic”は、気がふれた、を意味します。

語源となっているのはラテン語で月を意味するlunaという単語。

何気ない言葉ですが、精神病院で描かれた『星月夜』をどこか想起させはしないでしょうか。

自分が生きる現代で孤独を感じたギルは、ますますタイムスリップ先の時代へとのめりこんでいきます。

アドリアナがギルに惹かれた理由

また、ピカソの愛人アドリアナの存在が、さらにギルを1920年へと惹きつけていきます。

妖艶なアドリアナにギルは一目で釘付け、現代に戻っても考えるのは彼女のことばかり。

一方、アドリアナもギルに惹かれていたことが、後世に残った彼女の手記で分かりました。

しかし、一体彼女はなぜ周囲の魅力的な偉人たちではなくギルを好きになったのでしょうか。

おそらく、ふたりのある共通点が、アドリアナの気持ちを揺さぶったのではないかと考えられます。

それはふたりがどちらも自分の生きる時代よりも過去が良かったのだと思いを馳せている点。

本来であれば行けるはずのない昔の世界に焦がれる彼ら。

自分と同じく「生まれてくる時代を間違えた」という想いを抱えたギルだから、彼女は惹かれていったのです。

ゴッホが登場しない理由

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それではいよいよ、ゴッホ不在のわけを確かめていきます。

ギルに新しい考えをもたらす過去の人々

ギルがタイムスリップ先で出会う過去の人々は、ギルに新しい考えをもたらしています。

例えば、ヘミングウェイの本当の愛と死への恐怖についての持論や、ダリの奇妙なサイの話など。

彼らは広く知られるイメージをそのまま生き生きと体現し、印象的な言葉でギルの心を動かしていきます。

もしかしたらタイムスリップは本当には起きておらず、ギルの作り出した妄想だったのかもしれません。

ギルにとって新鮮に思われた偉人たちの語る内容は、彼の潜在意識にすでにあった可能性もあります。

ですが、敬愛する芸術家たちから語られる、自分の外からの言葉。

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