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「アンチヴァイラル」は、近未来を舞台にセレブがかかった病気のウィルスを、求める人に移植するクリニックを背景とした2012年の作品です。
白を基調とした現代アートのようなシーンが印象的でありながら、ダークな世界観をサスペンス調ストーリーに仕上げたこの映画。
「ザ・フライ」などで知られるデヴィッド・クローネンバーグ監督の息子であるブランドン・クローネンバーグの長編デビュー作です。
異形への変身シーンなど独特のホラーテイストはさすが父親譲りという面がある一方、現代アートのような雰囲気も醸し出されています。
ブランドンならではのオリジナルな作品として彼の代表作となりました。
ジャンルは近未来SFサスペンスとなっていますが、セレブへの愛がモチーフとなっている恋愛映画の側面も持ち合わせています。
そしてその表現が一見、難解であり、なぜ人々は愛する人ではなくセレブを求めたのか、など疑問が残った方も多かったのではないでしょうか。
今回はそんな「アンチヴァイラル」について、なぜセレブを求めたのか、そしてハンナ自身ではなく細胞で満足する理由などを考察していきます。
シドとハンナについて
不健康な主人公シド
主人公のシド・マーチは、まじめに働く一方で怪しい事業にも手を染めています。
彼の表向きの本業はこちらです。
セレブウィルス移植専門のクリニックで技師兼営業
引用元:アンチヴァイラル/配給会社:Alliance Films
彼は、優雅なセールストークで客に高価なウィルスを勧め、丁寧に説明をしながら注射をする優秀な社員でありながらなぜか不健康そうに見えます。
その理由は、自宅に隠し持った「ウィルス抽出機」でコピーウィルスを精製して売りさばく密売人でもあるからです。
自らの腕にセレブの病気ウィルスを注射して持ち運んで闇ルートに横流ししているため、常にどこか体調が悪いのでしょう。
この不健康そうな主人公を演じたのはケイレブ・ランドリー・ジョーンズです。
彼の耽美的な美青年ぶりがこの作品の雰囲気を決定的なものとしていました。
シドは、クリニックで一番人気のセレブ女優、ハンナ・ガイストを愛しているように見えます。
しかし彼は本当にハンナ自身のことを愛していたのでしょうか。
人としてのハンナ
それでは、セレブ女優であるハンナはいったいどのような人物なのでしょうか。
クリニックの中や外看板としてハンナの大きな顔写真が飾られており、彼女が広告塔になっていることがわかります。
裸で懇願している映像での彼女の姿を除くと、ベッドに横たわっているだけでほとんど話すシーンがありません。
よって、彼女の性格やキャラクターなどの人物像は謎のまま。
しかし劇中で、未知のウィルスに感染したのは「中国へボランティアに行っていた時だった」という説明がありました。
国をあげての壮大な葬式の描写からも、心が広くて慈愛に満ちた、万人に愛される存在の有名女優だということがわかります。