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『そして父になる』は、2013年に公開された是枝裕和監督の映画です。
1965年から70年代ごろに実際に起こった「新生児取り違え事件」を題材に、赤ちゃんを取り違えられた家族の苦悩と葛藤を描かれています。
家族にとって本当に大切なのは血の繋がりでしょうか、それとも過ごしてきた時間でしょうか?
タイトルである『そして父になる』に込められた真意に、その答えがあるのです。
ここでは大切な場面に出てくるピアノの音色や野々宮家と斎木家の違いなどから、タイトルの真意や映画の結末は正解だったのかを考察します。
対照的な野々宮家と斎木家
子どもの取り違えを宣告された2組の家族である野々宮家と斎木家。
この2組の家族の描かれ方はとても対照的です。
特に経済的な違いや家族構成の違い、両親の性格、教育方針の違いはかなり極端に描かれています。
さらに野々宮家の様子と斎木家の様子を交互に見せる構成も、両家の違いを引き立てるのに効果的な表現手法です。
これらは映画のテーマに含まれている、血の繋がりと過ごしてきた時間の違いを明確にすることにあると推測されます。
2組の家族の違いを極端に描くことで、子どもの交換による環境変化の大きさ、難しさを強調しているのではないでしょうか。
新生児取り違え事件
『そして父になる』は「新生児取り違え事件」をテーマに描かれていますが、どのような事件だったのでしょうか。
新生児取り違えとは
新生児取り違えとは病院で産まれた新生児が何かの要因で別の新生児と入れ替わってしまうことです。
病院側が誤って取り違えてしまう事故であるケースと、誰かの故意によるケースがあります。
事故のケースの原因としては、以下の2点が考えられます。
- 自宅での出産がほとんどであった時代から病院での出産に切り替わっていく過渡期であったこと
- 第2次ベビーブームにより出産ラッシュに病院の人手が不足していたこと
映画では看護婦の野々宮家への羨望、妬みによって故意に新生児を入れ替えていました。
映画に与えている影響
1953年に東京都で実際に起こった新生児取り違え事件は有名で、この映画にも大きな影響を与えていると考えられます。
本来であれば裕福な家庭で育つはずであった新生児と、生活保護を受ける貧しい家庭で育つはずの新生児が取り違えられてしまったのです。
裕福な家庭で育った子どもは大学を卒業し、一流企業へ就職。
貧しい家庭で育った子どもは定時制高校を卒業し、トラック運転手となりました。
野々宮家と斎木家の経済的違いや教育方針の違いを対照的に描いたのにはこうした背景もあったのでしょう。
ピアノの音色が示すもの
映画音楽としてのピアノ
映画の中で大きな役割を持っているのが、シーンのバックで流れる音楽です。