出典元: https://www.amazon.co.jp/dp/B07219B3WJ/?tag=cinema-notes-22
人種差別や性的マイノリティーなど様々な問題を扱っている映画「ムーンライト」。
主人公が人生の困難に立ち向かっていくストーリーかと思って観た人も多いのではないでしょうか。
この作品では境遇からの脱却や学びを伝えようとしているようには見えません。ただ主人公の人生を傍観するのみ。
派手な場面展開もないこの作品が、その静けさの中に込めた強いメッセージとは何だったのでしょうか。
そして主人公のその瞳が物語るものについても考えていきたいと思います。
瞳が語るもの
「リトル」「シャロン」「ブラック」それぞれの時期の彼らの「瞳」は何を見て、何を物語るのか。
彼らの「瞳」から発せられる純粋な愛や苦悩を受け取ることで、この映画の持つ深みは更に豊かなものになるでしょう。
目線
3つの年代層に分かれて表現されるそれぞれのシャロンの「目」には特徴があります。
「両親の愛情への渇望」「怒り」「赦しと受容」とが見事に区別されて表現されているのが分かるでしょう。
それが冒頭に記したポスターの目線なのです。
鎧
その生き方を決して肯定しているわけではないのですが、こうならざるを得ませんでした。
幼い頃フアンに「周りに自分の人生を決めさせるな」といわれてきたけど、結果こうなるしか自分の人生に道は無かったのです。
自分の心の底に静かに横たわる彼の優しさや、周りにゲイとしての苦悩も含め本来の自分を見せないシャロン。
ブラックになった彼の筋肉は「鎧」に他ならないのです。
金の太いネックレス、金の差し歯、どこから見てもドラッグディーラー姿のシャロンですが、彼の目線は優しいままでした。
どんな苦難を受けても彼の心は変わっていなかったことが瞳から分かります。
自分は何者か
現在のアメリカにおいて、黒人の男性がどのようなアイデンティティを獲得していくのでしょうか。
白人以上に「自分は何者なのか」という厳しい問いに晒されるブラックアメリカン。
彼らの「心の揺れ」や「人に愛されたい気持ち」が精緻な映像表現によって語られています。
小市民としてささやかな幸せを見つけたケヴィンの姿を見てシャロンは何を感じたのでしょうか。
フアンが言っていた「周りに決めさせるな」という忠告。
自分から進んでその道に入った訳ではないが、育った環境が今歩いている道以外に自分に人生の可能性を許しませんでした。
シャロンにとってそのような現実としかならずに終わってしまったわけです。
シャロンとケヴィンが海を見ながら和解した後、フラッシュバックで月の光に青く輝く幼いリトル・シャロンが振り向きます。