その際、上官が根性論を語って伊藤を非難します。宮部はその上官に向かって、このような言葉を投げかけました。
伊藤は立派な男でした
引用:永遠のゼロ/配給会社:東宝
それまで部下たちは、宮部の事を臆病者と思っていましたが、この後上官に殴り倒される宮部を見て、印象が変わります。
殴られるのを覚悟してまで部下の名誉を守ろうとする宮部。
部下を持った今、宮部にとっては生き残ることも大切ですし、部下を「生き残らせる」ことも大切なのです。
この想いが、宮部の特攻を志願する引き金となります。
不合格しかくれない宮部
上司としての権限を利用して、宮部は部下の生き残りを助けます。
飛行訓練において、十分パイロットとしての腕を磨いている部下に対して、宮部は「不合格」を出し続けました。
好戦的な部下であり、戦場で早く死んでしまうと考えたからです。
部下に生きて帰ってくるように指導をしており、宮部にとってそれは信念となっています。
背景にはやはり、自分も死にたくないが、部下にも死んでほしくない、という思いがあるのは間違いありません。
部下の命の上にある命
戦況が苦しくなると、特攻隊員としてパイロットたちが次々に戦地へ送られます。
もちろん宮部にも出撃命令が下されました。宮部が乗る零戦の周りには、宮部を守る直掩機として部下たちがいます。
宮部が生き残る道を探す一方、部下たちは宮部を守るために死んでいきました。
彼らが死ぬことで、俺は生き延びているんだ…
引用:永遠のゼロ/配給会社:東宝
このセリフから、宮部は部下の命の上で生かされる自分の命に葛藤を持っていることが分かります。
自分も部下も生き残りたい、生き残したいのにそうできない辛さは、宮部を狂わせ、特攻を志願させるには十分でした。
精神が衰弱していく…
部下たちの死を見るたびに、上司の宮部は心を痛めます。
温厚で寛大な心を持っていたはずの宮部は、特攻を志願する直前は痩せこけ、視点も定まっていない表情をしていました。
やはり部下の死の上にある自分の命に疑問を持っていたのです。
その苦しみから解放される選択肢は、自分の命を部下の命の下に敷くこと、つまり特攻だと考えたのです。
しかし、妻松乃との「生きて帰る」という約束があります。その約束との狭間で苦しんでいるからこそ、直前まで悩み苦しみ続けたのです。
宮部が選ぶ道こそ辛い道
宮部は常に生き残ることに執着していました。実はその道は辛い道でもあったのです。
自分の愛する人や友人が亡くなり、自分だけ生き残ったという感覚で辛い思いをしている人が戦後多く増えました。
それらの人々の中には、生き残った辛さゆえに自殺をする人もいます。
つまり宮部が選んでいた生き残る道は、自殺を考えるほど苦しい道なのです。
しかも自分が何としても生き残るように指導した部下が死んでいくので、なおさら宮部は苦しみます。
戦後に生き残った辛さから死ぬ人は「自殺」です。宮部にとっての「自殺」は「特攻」だったのかもしれません。
大石賢一郎に機体をゆずった理由
特攻直前に、宮部は自分が搭乗する予定だった機体を変更してもらいます。
宮部が搭乗する予定の機体には、部下の大石賢一郎が乗り込み、結局その機体は故障のため不時着し大石は助かりました。
宮部が機体をゆずったのはなぜでしょうか。