マリには、家族を無くす寂しさや苦しさは痛いほどわかっていたのです。
余命が短いことを知っているマリにとって、自分の命に代えても里美を守りたい強い願望が生まれました。
里美に自分の愛情を注ぐことで、マリはようやく忌まわしい過去のトラウマから抜け出せたのです。
里美を助けるためには高額な現金が要ります。
残された時間で自分にできることは何かを考えた時、今の立場を利用して現金を手に入れる方法を考えたのでしょう。
余命少ないマリは北城と刺し違える覚悟で取引に臨んだ
最後の取引の場に催事場所を選んだ理由は、大勢の人の前で北城も自分も社会的に抹殺しようと考えたのではないでしょうか。
取引だけが目的ではなく、北城に対する報復の意味もあったと思われます。
北城グループに人とのぬくもりを期待したマリの絶望
マリは、北城にさえ人とのふれあいやぬくもりを求めていたのです。
ただし、北城からは人間らしい扱いなどされずひどい仕打ちを受けていたのでしょう。
マリのささやかな希望が絶望に変わった時、北城を心の底から恨むようになったのです。
同時に、少しでも北城に期待したことで自己嫌悪になり、心に奥深い傷を負っていたのでしょう。
反社会的と知っていても北城から離れられなかったのは、マリにとって唯一の心のよりどころだったからなのです。
つらい過去を持つマリは、人との触れ合いを感じることができる居場所だけが欲しかったのでしょう。
北城を社会的に抹殺しようとしたマリは取引の後に命を懸けた行動に出る
催事会場で取引することは、卑怯(ひきょう)な北城が人前では騒動を起こさないとわかってのこと。
取引が終わったのに会場に残ったマリ。北城への恨みを果たすことが目的でした。
北城自身の命を奪い社会的にも抹殺することを考えたのでしょう。
わざと騒ぎを起こすマリには、北城の命と引き換えに自分の命を終わらせる覚悟があったと思われます。
今までの人生や我が子の面影を見た里美とも、永遠の別れを告げようとしたのです。
探偵に最後のことばを交わす表情には、今までのしがらみからようやく抜け出せる解放感がありました。
余命が犯行に与えた影響
マリの人生は、消える寸前まで周りを明るく照らすろうそくのようでした。
ろうそくは、自分の身を溶かして明るく周囲を照らし続け、消える瞬間が最も明るいともいわれます。
マリは最後まで、命を燃やして生きたのです。
家族を思う愛は道徳心さえ麻痺(まひ)させた
マリの人生の最後の数日間は思いを遂げるための大切な時間でした。
たとえ犯罪でも、里美の家族のために自分なりの方法で現金を届けることを考えたのでしょう。
人の道からは外れていますが、マリにはその方法しかなかったのです。
自分のわずかな余命を知っていたマリだから、里美を救うことと自分の命を引き換えにする覚悟ができたと思われます。
その思いは、犯罪に手を染めないという道徳心でさえ麻痺(まひ)させるほど深く一途なものだったのです。
獄中で余命を静かにすごすマリには安堵(あんど)の表情があった
獄中で命の終わりが迫っているのに、マリの表情は幸せそのものでした。
思いをはせるのは、届けられた現金で救われた里美家族の幸せそうな顔でしょうか。
自分の娘ではないのに、マリの表情は母親の持つ母性にあふれていてようやく家族の幸せを手に入れたかのようでした。