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目に見えないウイルスの脅威は、健康被害をもたらすだけではなく、人々に精神的な不安を与えます。
増してやそれが、ワクチンも効果的な治療薬も存在しない未知のウイルスであればなおのこと。
映画『コンテイジョン』は、新種のウイルスの世界的大流行(パンデミック)と、それによるパニックを描いたスリラー作品です。
2011年公開の本作ですが、未曾有の事態となった新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに再び注目を集めることとなりました。
ウイルス被害が広まっていく過程。そしてその渦中にある人間の心理。臨場感を持ってそれらを描いた今作を考察していきます。
不安を刺激するリアリティとフィクション
『コンテイジョン』の世界で繰り広げられるウイルス感染の騒動は、観た人の心に強い不安を与えます。
それはこの作品が、徹底されたリアリティと、フィクション的な演出の巧みな融合によって成り立っているためです。
映画の製作は医療従事者や専門家の監修のもと行われました。そのため、感染拡大の模様は高い再現度で描かれています。
そしてその事実がより一層、作品のサスペンス性を裏付けているのです。
感染症の恐ろしさについて警鐘を鳴らす本作。登場人物が遭遇する出来事は、観客の心理を大きく揺さぶります。
しかし、画面にうつっているのは決して大げさな演出ではありません。
実際、新型コロナウイルスが蔓延した2020年、買い占めやロックダウンなど映画と同様のことが世界各地で起こりました。
緻密に作り上げられたフィクションには、時に現実でも役立つヒントが隠されています。
『コンテイジョン』の内容を理解することは、私たちが実際にどのように緊急事態を生き抜くかに繋がっていくはずです。
最初の感染者ベス
ウイルスに最初に感染したのはミネアポリスに住む女性、ベスです。
彼女が触れたものや接触した人々から、感染の輪はみるみる広まっていきました。
パンデミックの始まりとなってしまったベス。
なぜ最初の感染者にベスというキャラクターが選ばれたのか、制作側の意図を探ってみましょう。
ベスの行動範囲
ベスは会社の重役で、かつフットワークが軽く、社交的な人物です。
そのために彼女は様々な場所で複数の人々と接触。それに伴い、ウイルスもあちこちへ運ばれました。
まず第一の理由として、彼女のように行動範囲の広いキャラクターがストーリー上都合が良かったのだと考えられます。
ウイルスが短時間で世界中に拡散する様を描くには、最初の感染者は引きこもりではいけません。
国内外を飛び回り、かつ、他人と気軽に接触する人物である必要がありました。
しかし、ベスが最初のひとりとなった理由にはさらに深い意味が込められていそうです。
最後に明かされる第1日目
ベスが感染した理由を探るには、映画のラストシーンを注意深く観察する必要があります。
ウイルスがなぜ発生し、そしてどのようにひとりめの感染者が生まれたかがここで判明しました。
ここで描かれる一連のシーンは、まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざそのもの。
そしてその発端に映っていたのは、ベスが勤めるアルダーソン社による木の伐採の様子…。
なにか意味があるように感じずにはいられない演出です。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
ベスを通してわかるミスリードの存在
実はベスは、1シーン目からあえて観客に良い印象を与えないキャラクターとして描写されています。
それは最初から彼女が不倫していることが分かってしまうため。不倫する人間に好印象を抱く人は多くありません。