「子供らしさ」「普通らしさ」の中身は大人が子供に押しつける実態なき価値観でしかないのです。

まずここでフランクとメアリーの心が通い合っておらずズレていることが判明します。

押しつけられた英才教育

本当の「才能」見つけて育てよう―子どもをダメにする英才教育

フランクとは対照的にメアリーの才能に注目し、徹底した英才教育を与えたのが祖母のイヴリンです。

彼女は数学のソフトが入った最新鋭のPCをプレゼントし、徹底して教え仕込もうとします。

しかし、これがメアリーの中で大好きなフランク叔父と離れてしまうという不安もまた生み出すのです。

ここで問題なのはイヴリンがメアリーの感情をまるで無視した合理的な道しか残していないことでしょう。

確かにメアリーは数学の天才ですが、だからといって心底から数学の英才教育を望んでいるのかは疑問です。

この押しつけられた英才教育はこれはこれでまた別の歪みとなって現われています。

遺言に込められた想い

遺言。(新潮新書)

親子の価値観の違いを踏まえ、本題である遺言に込められた想いについて考察していきましょう。

価値観のすれ違いは大きな争いを生み出しましたが、その果てに残ったのは何だったのでしょうか?

イヴリンがメアリーに固執する理由

メアリーが偶々ネットでダイアンの自殺を知ったことから事態はどんどん悪化していきます。

その中でも一際目立つのがメアリーに固執し暴走していくイヴリンです。

これは突き詰めていくと結局「ダイアンの死」が彼女の歪んだ教育方針の元でした。

自身の教育が娘の死という形で示されたことは彼女にとって認めがたい事実だったのでしょう。

そこで、今度はダイアンの面影を孫のメアリーに重ね、一人前の天才に育て上げようとしました。

しかし、感情を無視してのスパルタ教育であるという根本的な原因は何も解決されていません。

そのズレに気付かなかったという悲しさがイヴリンがメアリーに固執し続けた理由ではないでしょうか。

ダイアンがフランクに託した想い

言葉に託す想い

ダイアンはフランクにナビエストークス方程式の証明ノートを書いた後、このようなメッセージを残しました。

イブリンが亡くなったあとに公表して

引用:gifted/ギフテッド/配給会社:20世紀フォックス

凄く短いメッセージですが、ここには「親の思い通りにはなるまい」というダイアンの固い決意が伺えます。

イヴリンの教育からして、ダイアンの数学の才能は結局親によって都合良く利用されたものでしかなかったのでしょう。

そうなると、幾ら恵まれた才能を持っていても、数学者の道がダイアンが心底望んだものだったのかも疑問です。

そうした親の「こうなって欲しい」と子の「こうなりたい」は大人になればなるほど複雑なジレンマを生み出します。

そして、そのジレンマに耐えかね、彼女はその論文をフランクに託して自殺する形でしか解決出来なかったのでしょう。

彼女がフランクに託した遺言、それはきっと最後の自殺という形でなされたイヴリンからの解放だったのです。

ダイアンが自殺した理由

自殺論 (中公文庫)

ここまで見ていくと、ダイアンが自殺を選んだ理由なども明らかになってきます。

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