男性の場合、いかに社会的立場に依存するかというのがこの家族のエピソードで見えてきます。
監督であるジェルミがアンドレアに投影した一つにそういう部分があるのかもしれません。
それを一番敏感にかつ感覚的に捉えているのが、まだ幼いサンドロ。
末っ子サンドロの想い
アンドレアは労働組合の行っているストライキを無視して暴挙に走るわけですが、なぜそれまで立派だった彼が暴走してしまったのでしょうか。
家族との絆が歪みはじめ自暴自棄になってしまったのだろうと考えられます。
この職場での暴挙をきっかけに、職場の仲間たちとも亀裂が生じるのは当然のこと。
そしてますます酒に溺れ、家にも帰らなくなるというのは想像に難くありません。
しかし、末っ子のサンドロにとってアンドレアは今でも職場の仲間たちと陽気に歌い、家では威厳を持っていた父親像は変わっていません。
サンドロのその健気さに、観ているこちらは胸が締め付けられてしまうでしょう。
アンドレアにもサンドロと同じ時代があったわけですから、人の成長というものには残酷さが含まれているというのを感じさせられます。
中でも胸を打たれるシーンは、サンドロが父を探して酒場を一軒一軒回るシーン。
父を探し出したサンドロが、昔なじみの酒場に彼を連れていく様子からは、父への「しっかりしてよ」という気持ちすら感じられます。
仲間たちを裏切ったうしろめたさがあるアンドレアの気持ちは、彼の表情から読み取れます。
酒場にいる仲間たちはアンドレアを好意的に暖かく迎えいれ昔のような気持にさせてくれるわけですが、これこそサンドロが願ったこと。
きっとサンドロは、今の自暴自棄な父ではなく、昔の友と過ごすことで楽しかった気持ちを思い出して欲しかったのではないでしょうか。
監督の想い
このことをきっかけに家族との和解の兆しもみえてきたアンドレア一家。
家族や友人たちと過ごす暖かく楽しいクリスマスパーティーのシーンではすっかり平穏を取り戻したのが感じられます。
歯車が狂ったあの日から一年。
ようやく、元の安泰な日常が戻りかけようとしていたのです。
しかし、その時すでにアンドレアの身体は弱り切っていたことを私たちは知ることになります。
夢のように幸せだったクリスマスパーティーが終わった夜、ベッドでギターを弾きながら息を引き取りました。
ここに隠された監督の想いとは、人は時として残酷だが、人は人と交わることでしか生きていけないということだったのかもしれません。
この映画を名作たらしめたのは、ストーリー以外にも!
ストーリーを豊かにする音楽
よく名作には、名曲が多いといわれますが、この「鉄道員」もご多分に漏れず音楽がもたらした効果は大きいと考えます。
劇中においてもアンドレアのギターは一家の幸せのメタファーとなっているのです。