世界が影に覆われ、混乱に陥っても正義を貫けという法の精神を説いた言葉といわれています。
それは時代遅れとなったボンドを奮い立たせるかのようです。
テニスンの詩
そして中盤の公聴会でMがテニスンの詩『ユリシーズ』を読み上げます。
“かつて天と地を動かしたあの強さを我々は失った”
“だが英雄的な心は今も変わらずに持っている”
“時代と運命に翻弄され弱くはなったが”
“意志は強く 戦い求め 見出し 屈服することはない”
引用元:007スカイフォール/配給会社:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
この詩は長い時を経て帰郷したオデッセウスが老いてもなお内に秘めた闘志を歌ったものです。
テーマ曲“skyfall”同様、ボンドの魂と、そして娯楽映画の代名詞として50年間続いてきた007シリーズのプライドに呼応していきます。
威厳に満ちたM役ジュディ・デンチの朗読と、街を駆け抜けるダニエル・クレイグの肉体、緊迫感あふれるサスペンスアクション。
これらが相まってシリーズ随一のエモーショナルな名場面となりました。
ジェームズ・ボンドの復活
このシーンを境に、映画は“007らしさ”を再生していきます。
ボンドが逃走用に選んだ車はシリーズ第3作『007 ゴールドフィンガー』に登場したボンドカー、アストンマーチンDB5。
そこに満を持してジェームズ・ボンドのテーマが鳴り響きます。
ダニエル・クレイグ版ボンドになってテーマ曲がエンドロール以外の劇中で流れるのはこれが初めてです。
「乗り心地が悪いわね」
引用元:007スカイフォール/配給会社:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
Mがこのようにボヤけばボンドは助手席を吹っ飛ばす赤いボタンをちらりと見せるなど、これも往年のファンはニヤリなシーンでしょう。
まとめ
これまで『007 スカイフォール』について解説してきました。
改めて考察をしてみると「やはり007はジェームズ・ボンドじゃなきゃ!」と感じさせられます。
最後にお伝えしたいのは、過去の“007シリーズ”が本作に大きな影響をもたらしたということです。
ラストシーンではMのオフィスがシリーズ第1作『007 ドクター・ノオ』と同じレイアウトで登場するのにお気づきでしょうか?
ここでボンドの同僚イヴの名字が“マネーペニー”と明かされるのです。
これまでのシリーズでボンドと丁々発止のやり取りを繰り広げてきた秘書が、クレイグ版になってようやく初登場したということになります。
そして憎まれ役のような存在だったマロリーが新たなMとなるのですが、M役が男性に戻ったのは1989年の『007 消されたライセンス』以来。
本作は美しい映像、迫力あるアクション、格調高い脚本を得て英国の誇るアイコン“007=ジェームズ・ボンド”をエレガントに再定義してみせたのです。
この破壊と再生を繰り返す力が50年間に渡って娯楽映画の王道であり続けた所以ではないでしょうか。