その理由は誠二郎がかつてほかの家で子供を作り、そちらを選んだことでした。
三姉妹の決心を引き出した人物とは
しかし、実の父親を拒絶するという厳しい決断をさせたのは、やはり零の存在。
「彼女たちを守る」という零のひたむきな姿が、彼女たちを成長させたのは間違いないでしょう。
やがて、三姉妹だけでなく後藤、香子、歩、そして養父である柾近までもがそれぞれの闇から解き放たれていきます。
それは中心となった零の努力の結果ともいえるのではないでしょうか。
零にとって宗谷はどんな存在だった?
獅子王戦トーナメントを制した零。いよいよタイトルを賭けて宗谷との対局にのぞみます。
ちなみに作中では「名人」と呼称される宗谷ですが、実際には複数のタイトルを保持する絶対的な存在です。
かつて自分をあしらい、師匠をも倒した最高の「壁」
かつて宗谷は零の無謀な一手をとがめて完勝しました。しかも、宗谷や師匠である島田も倒しています。
それだけでなく、歩とともにあこがれた存在でもある宗谷。
少なくとも一戦目はわけもわからずその大渦に飲み込まれたという表現ができるでしょう。
しかし、零はこの時敗着の一手を指してなお、どこまで指せるのかと一種楽しみにも似た表現でその感想を漏らしています。
つまり、敗北した時点で宗谷は零にとって先の見えない広大な大海原。
それは若者にとってこれから漕ぎ出す、楽しみと不安のまじった大人社会を連想させるものともいえるでしょう。
成長した零と再びまみえる「大海原」
タイトル戦での宗谷戦も、宗谷が高い壁であることは基本的に変わりません。
しかしこの時、零は自分のありようを見定め、人間として大いに成長を果たしていました。
ありていにいえば、自分の行動によって周りを幸せにできる、「大人」に近づいていた、ともいえるでしょう。
対局場へと続く山寺は山形県の立石寺とされます。
かつては松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」の名句を残したことでも知られる、国内屈指の由緒正しい史跡。
その長い長い階段は、まさに「大人の階段」のようにも思えます。
天才同士の邂逅の果て、零がたどり着く境地とは
零は以前、島田に宗谷と雰囲気が似ていると言われました。
宗谷は若くからプロ入りして大成功をおさめた将棋界きっての天才棋士。零も中学在学時にプロ入りを果たした若き天才棋士です。
しかし、この島田の言葉は彼らの天才性だけを指したものではないでしょう。
やがて零が宗谷のように高みへとたどり着くこと予言のようにも聞こえます。
最後の一局の結果は語られていません。しかし、その結果がどうあれ零は周りを幸せにしながら高みへと昇っていくはずです。