でもそうしなかったのは、彼に考えがあったからでしょう。
分からない事・悩んでいる事に答えを与えるのは簡単です。しかしそれで問題が根本的に解決するでしょうか。
世の中には「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という有り難い格言が存在します。
自分が釣った魚を相手に与えても、相手は成長しないのです。
今に焦点を当てるのではなく、長期目線で考え、相手が自分で魚を釣れるようになるために教えるべきだと説いています。
この考えをトムもしたのではないでしょうか。彼は実際には死んでいます。ケイトとずっと一緒にいてあげられないのです。
だから彼は彼女に自分で悩みを解決する術を身に付けて欲しいし、自分で幸せを見つけて欲しいのだと思われます。
幸せは近くにある
トムと過ごすうちに、ケイトの意識は徐々に変わっていったようです。彼女が見つけた新しい視点とはどんなものだったのでしょうか。
ないもの探し
ケイトは自分が持っていないものにばかりに目を向けて愚痴を言っているにすぎません。
本当は幸せなはずなのに、近くにある幸せに気づこうとしていなかっただけなのです。
彼女には家族がいますし、仕事があります。それだけでも充分幸せでしょう。
それを理解させるために、トムはある行動をとったのだと思われます。
ホームレスのコミュニティ
トムはケイトをホームレスのシェルターに連れて行き、仲間を作らせようとしました。
彼の職場だから連れて行った感じでしたが、それはトムの嘘だと思われます。
ホームレスの人達には家族や仕事がありませんが、それでも彼らなりに幸せに暮らしていました。それに比べてケイトはどうでしょうか。
彼女が探し続けている幸せは、ずっと身近にあったことを気づいて欲しかったのです。
イギリスの社会問題
ケイトの置かれている環境は、なかなか複雑です。自身が移民ですし、過去を否定するというアイデンティティの問題もあります。
その上職場の近くにホームレスのシェルターがあり、姉がセクシャルマイノリティー。
社会が抱える問題を全て反映させたような背景を彼女は持っていたのです。そう考えると、ケイトの幸せ探しは他人事ではなくなります。
本作は社会問題をおりまぜながら、それだけで終わらせず、身近なのだという訴えをしているのではないでしょうか。
そして幸せが見出せないでいる多くの人に、もっと自分の周りを見るよう促しているのです。
トムと出会ったケイトは、自分の置かれた状況に幸せを感じられるようになりました。
それは彼女がお金持ちになったわけでも人気歌手になれたからでもありません。
無い物ねだりせず、身近な幸せに目を向けただけなのでしょう。