それが麻薬の怖いところ。稼いだ金は麻薬に使い腕は注射の針の跡だらけになっていったのです。
繊細な音楽性は麻薬との引き換えなのか
結局、あの詩情豊かな感性を手に入れるため、弱いエヴァンスは麻薬に手を出してしまったのでしょうか。
結果的に一定の効果を生んでしまったかのような錯覚をもたらしたことで止められなくなってしまったとも推察できます。
そしてついには命を落とす結果になってしまいました。確かにエヴァンスの意思が弱かったということも出来るでしょう。
一方で、彼は自分の理想とする音楽を手に入れられるなら麻薬に命をくれてやってもいい。
そんな悲観的な思いに取り憑かれていたのかも知れません。
そこまでエヴァンスは自らの音楽性に純粋だったと、あの音を聴くと信じたくなるのです。
一時期は麻薬のために手が動かなくなり、演奏を中断したとの証言も出てきていました。
しかし、麻薬に頼らなくてもエヴァンスのあのリリカルなサウンド、インタープレイの醍醐味は生まれ育っていったように思えてなりません。
しかし、これはあくまでも結果論です。エヴァンスは自らのピアニズムのために麻薬と心中した、ともいえるかもしれません。
波乱万丈・わがまま勝手な人生の裏には
多くのピアノの巨匠同様、ビルはわがままだった。非常に自己中心だった。
自分のことばかり考えるタイプさ
引用:ビル・エヴァンス タイムリメンバード/配給会社:オンリー・ハーツ
特に、ジャズの世界に足を踏み入れた頃から女性関係は活発だったようです。
結局女性関係も麻薬と同様、彼の人生をダメにしていったようです。(彼が女性を裏切るという形で)
エヴァンスという人間は常に誰かに、何かにすがっていないと生きていけない弱い人間だったと見て取ることができます。
長年連れ添ったエレインは、エヴァンスがネネットという女性を関係を持ったことを悲観し、地下鉄に投身自殺。
映画のインタビューではエレインが可哀相だとの証言が多く聞かれていました。
エヴァンスは音楽以外はどうでもよく、自由気まま、わがまま放題と周囲からは見られていたようです。
ネネットとの間には子供も出来るのですが、彼女にも愛想をつかされてしまいます。
その頃、エヴァンスの音楽の良き理解者であり最愛の兄が精神を病み拳銃自殺するという悲劇が襲います。
思うに、彼の輝かしい音楽人生は、悲惨なプライベートとトレードオフの関係にあったように思えてなりません。
天は二物を与えずとでもいうのでしょうか。
瑞々しい音楽は永遠に
たった51年という人生を急いで走り去ったビル・エヴァンスというジャズ・ピアニスト。
その名前と彼のファーストトリオの名声は、彼がどんなにジャンキーで、女性関係にだらしなくてもその輝きを失うことはありません。
ピアノに向かうときのエヴァンスは「ピアノの神に魅入られたピアノの申し子」そのものだったから。
トニー・ベネットはエヴァンスにこういわれたそうです。
真実と美だけを追求しろよ
あとはどうでもいい
引用:ビル・エヴァンス タイムリメンバード/配給会社:オンリー・ハーツ
この言葉はエヴァンスの思い詰めた悲劇的な人生を象徴しているように響きます。
そしてゲイリー・ピーコックは、
彼がジャズに与えた影響力はこの先100年は続くね
引用:ビル・エヴァンス タイムリメンバード/配給会社:オンリー・ハーツ
こう断言して映画を締めくくったのでした。
エヴァンスの人生が後ろ指を指されるようなものであったとしても、彼の輝かしく歴史に残る音楽を否定することは出来ないのです。
ビル・エヴァンスの人生と音楽を時系列的に並べ、彼の音楽の変遷と関係者の多彩な証言で綴っった本作。