「慰めの報酬」では上記の結末に至るきっかけとしてボンドは孤立無援となります。

果たして何でそうなったのかを見ていきましょう。

無益な殺生の連続

本作のボンドは無益な殺生を多く起こしてしまい、Mからの信頼を失うことになります。

まず冒頭のミッチェル、地質学者スレイト、更にはイギリス首相の護衛官まで…。

その上マティス殺しの濡れ衣まで着せられMI6とCIAの両方から追われても仕方ありません。

前作ラストで新生ボンドとして誕生したのに、まだまだその行動は荒削りで不完全でした。

本作の課題の一つは如何に無益な殺生を行わず任務を遂行できるかにあったといえます。

ボンドの真の復讐

そして彼が孤立無援となった最大のきっかけがボリビアの水資源を狙っていたグリーンの陰謀です。

決定打となったのがMI6から派遣されたフィールズのタールまみれの死体というでっち上げでした。

つまりボンドが行おうとした真の復讐の相手はグリーンであり、ヴェスパー云々は無関係です。

一見ヴェスパーのことを引きずっているようで、ボンドの復讐は仲間を殺されたことへの報復でした。

だからこそカミーユと利害が一致し、復讐という点に共感して戦うことになったのです。

ホテル爆破に託された復讐との訣別

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孤立無援となったボンドが復讐を断ち切る大きなきっかけとなったのが終盤でのホテル爆破です。

ここは本作のアクションシーンの中でも極めて重要なカタルシスのシーンとしてよく出来ています。

燃え盛るホテルで極限状態に置かれたボンドとカミーユの心理状態の象徴でもあるでしょう。

ここでボンドは復讐が何も生み出さず、その後に残るものが何もないことを知るのです。

だからこそカミーユの復讐自体は否定しないが自らは復讐へ身を窶す選択をしませんでした。

それこそがラストでのグリーンを砂漠の真ん中に放置するという結末へ繋がるのです。

このホテル爆破のシーンにはそうしたボンドの復讐との訣別の意味が込められています。

二段階にわけて描かれるジェームズ・ボンドの物語

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映画「007慰めの報酬」は前作「カジノ・ロワイヤル」を継承し「復讐」をテーマに話を展開しました。

それは新生ジェームズ・ボンドがプロのスパイになるプロセスをもう一段階かけて描くためです。

本作は通常のシリーズから作りとしてはアクション面、文芸面共に遊びの少ないものになっています。

そのことから批判もあったものの、シリーズが再生を目指していく上で必要な過程であったのです。

この後「スカイフォール」「スペクター」と続く中で従来のシリーズに近い作りに戻っていきます。

その夜明け前の暗闇を描いた作品として、決して軽んじることなく受け止めるべき一作です。

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