彼の成長は作中の大きな軸になっていますが、その成長は具体的にどのようなものだったのでしょうか。
受け身の原因
和彦は東大卒にも関わらずニート。最初のうちはその事実を百合にも話せずにいました。
高学歴であれば良い会社に就職するのが当たり前という固定概念に和彦は押し潰されそうになっていたのではないでしょうか。
そのため何にチャレンジするにも高学歴コンプレックスが歯止めをかけていたのかもしれません。
彼のように高学歴でありながらニートになると、就職しようにも「なぜニートになったのか」を聞かれることを恐れるのだと思われます。
そのためニートから抜け出せず、部屋に閉じこもる生活になるのではないでしょうか。
もともと社会性が乏しい和彦は高学歴ゆえの後ろめたさも相まって、受け身の度合いを加速させていったのだと推測できます。
受け身から主体的へ
銭湯のバイトも誘われるがまま面接を受け、殺人の仕事も流されるがままに始めた和彦。
このまま何もなければ彼の人生流されっぱなしだったのでしょう。
ですがあろうことか和彦は殺人という反社会行為をきっかけにして受け身な性格から主体的に行動できる性格へと生まれ変わったと考えられます。
充分な給料をもらえる仕事があり、恋人もいる人生は誰の目から見ても“勝ち組”です。
彼はやっと高学歴ニートの呪縛から解放され、受け身から主体的な性格にシフトすることができたのだと思われます。
お金を稼ぐ経験
ニートの和彦にとって、どんな形であれ仕事をしてお金をもらえば立派な社会人。
社会に背中を向けて生きてきた彼にとって、一番欲していた理想の姿だったはずです。
彼にとってお金を稼ぐ経験はどのような意味を持っていたのでしょうか。
給料をもらうという行為
和彦にとって働いて給料をもらうという行為は初めてだったはずです。今まで親のスネをかじってきた彼にとって、給料=自立に値します。
社会性の乏しかった和彦ですが、やはり社会の一員として認められたいという欲求は胸のどこかにあったのではないでしょうか。
お金は感謝された結果
何のために働くのかと聞かれたら、多くの人が「生活のため」と答えるでしょう。そのために好きでもない仕事に従事しているのが現状です。
給料として渡されるお金は、働いてくれた人への感謝であることを忘れてはいけません。
例えばストリートミュージシャンに投げ銭をするのは、そのミュージシャンが奏でる音楽に癒されたから。
聴くに耐えない音楽にお金を出す人はいないのです。
和彦の頭の中にはこの理屈があり、自分が殺人で給料をもらうことは感謝されている証拠だと感じたのではないでしょうか。
銭湯を舞台にした理由
殺人は非日常であると私たちは考えていますが、それが実はそうでもないようです。