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イギリス人監督マーティン・マクドナーは劇作家・演出家としてイギリスでは数々の賞に輝くなど、演劇分野での実績を誇ります。
この栄光をひっさげて映画の世界に乗り込んできた彼が本格的にハリウッドと手を組んで製作したのが「スリービルボード」。
劇作家として鍛えられ自ら筆を取った脚本の「物語の強さ」に注目しましょう。
さらに「ファーゴ」でアカデミー賞主演女優賞を獲得しているハリウッドきっての演技派女優フランシス・マクドーマンドの輝き。
彼女の人間性の奥行きを感させる演技が際立ちます。
加えて前作からマクドーナー組となっているウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル(サムは3作目)が魅力的です。
彼らの本作の意図を深く理解した演技も素晴らしく、フランシス・マクドーマンドはオスカー主演女優賞を獲得しました。
そしてサム・ロックウェルは助演男優賞を獲得しています。
誰もが驚く予想できない展開。
ラストのミルドレッドとディクソンの微笑みは何を語るのか、真犯人は誰なのか。
本稿ではそれら大きな2点を検証することにより、映画が訴えたかった本質に迫ろうと思います。
なぜミズーリ州なのか
ヒルビリー…貧困と差別
本作の原題は「ミズーリ州エビング郊外、3枚の広告看板」。
ロケはノースカロライナ州で行われたのですが、マクドナー監督が本作の舞台にミズーリ州を選んだのは何故でしょう。
アメリカ本土の地図を見ると、ミズーリ州は中西部に位置する内陸州で、白人の貧困層が多いことで知られています。
彼らは「ヒルビリー」と呼ばれます。「田舎っぺ」などの意味があります。
本来はアパラチア山脈の西側の山裾に住み着いた移民たちの末裔を指します。
閉鎖的なコミュニティを築き、開発や文明から置いていかれた白人たちが主たる構成者。
しかし時代が進み、今や「ヒルビリー」は全米いたるところにいます。
トランプを大統領に押し上げた大きな層のひとつが、この「ヒルビリー」という研究もあります。
洗練された支配者層の対極にある貧しくて負け犬、排他的な田舎者の集まりで出来ている町が「ミズーリ州」の「エビング」。
架空の田舎町ですが、本作では異質なものに不寛容で一方向の思考に固まりやすいという土地を舞台として展開されます。
こうした背景を押さえておく必要があるでしょう。
映画のポスターやパンフレットでもミズーリ州の輪郭をかたどったデザインが多様されていて、マクドナー監督のこだわりが伺い知れます。
看板が教えるもの
主要な3人と3枚の看板
貧しく排他的な白人たちの町の郊外の道路脇に突如現れた3枚の大きな看板。物語の始まりです。
女手一つで育て上げた娘がレイプされ焼き殺されるという酷い目にあった母親が主人公です。
彼女が、7ヶ月も犯人を逮捕出来ない町の警察署長に文句を付けた看板でした。
この3枚という数字とメインキャストの3人は暗喩として提示されている感じを受けます。
看板は表裏があり、裏には何も書かれていません。