福祉の仕事を希望し、恒夫に相談していた香苗。彼女はなぜこの職業を選び、そして最終的に諦めたのでしょうか。
優越感を求めて
見学と称してジョゼの家を訪ねたり、不自由な脚を妬んだり。彼女の身勝手さと図々しさが作中で描かれています。
これらのことから分かるのは、香苗が障害者を見下しているという点です。
自分よりも弱い立場の人の中に立ち、優越感を味わうために福祉の仕事を希望していたのではないでしょうか。
障害者のイメージが崩れた
彼女が思い描いていた障害者は弱い存在だったはずです。ですが香苗はジョゼと出会って、障害者へのイメージが壊れたのではないでしょうか。
香苗の嫌味たっぷりなセリフもジョゼに言い返されてしまったのですから。
福祉職への不純な動機は、このリアルな障害者と対峙した時に破綻したと考えられます。
もし福祉の仕事に就いても優越感を得られないのなら、この職業を選ぶ意味がなくなるのです。
幻想が打ち砕かれた香苗が福祉の仕事を諦めたのは当然のことだと思われます。
障害が2人の障害になったのか
もしジョゼが健常者だったら、彼らはそのまま付き合い続けたのかは疑問です。
健常者と障害者の恋愛が注目されるこの作品ですが、彼らの交際に終止符がうたれたのはジョゼの不自由な脚が原因だったのでしょうか。
結論からいうと、ジョゼの障害が無くても彼らは別れていたと思われます。
恋愛に対する価値観の違いが別れの大きな原因なので、それ自体はどこにでもある恋愛と同じです。
恋をして別れてまた孤独になる。そこには過ぎ去った日々があるだけなのです。
まとめ
障害者と健常者の恋愛を描いた「ジョゼと虎と魚たち」ですが、恒夫はジョゼの障害に同情していたわけではありません。
彼女の純粋さや、奥底に持つ激しい情熱に心を奪われたのです。
ジョゼの障害は彼女の個性であって、別れの原因は価値観の不一致にあるように見えます。
人と本気で向き合うことを経験したジョゼと恒夫は、この恋を通して大きく成長しました。
今回の恋で得た教訓を彼らがこれからの人生で、どのように活かすのか。
この作品を「人間関係」という大きな枠で捉えた時、私達にも問われる課題なのかもしれません。