警備こそ厳重であるものの、ヘガデル博士はしんのすけをお茶を飲んで話をしようとしていました。
しかもスカシペスタン共和国の目論見すら全部を正確に看破した上で行っています。
しんのすけが研究所へ入れたのはたまたま体型が一致したからですが、それすら受け入れてるのです。
この話し合い・対話重視の姿勢は非常に象徴的で、どんな人にもおもてなしの心を忘れません。
武力行使の解決しか考えないスカシペスタン共和国とは180°正反対のいい国であることが分かります。
親子の関係
そしてクレヨンしんちゃんといえばおなじみ、「大人と子供」の関係も見逃せません。
特に本作は最終的に野原一家とレモンの家族とで綺麗に対比されていました。
そこに描かれた重要なメッセージも改めて見ていきましょう。
エリートの家庭と普通の家庭
最初は全く可愛げがく冷たさすらあるレモンでしたが、野原一家に来て大きく変わります。
目一杯5歳児であることを楽しみ感情豊かなしんのすけとは本当に対照的な性格です。
レモンの家系は親子よりは師匠と弟子みたいな上下関係で成立しており、逆らえません。
まずここに普通の家庭とエリートの家庭という対比が大きく描かれているのです。
そして後半、スカシペスタン共和国の目論見を知り関係は大きく変化していきます。
良い子とは反抗しない子ではない
そんな両極端な家族がしかし後半あるやり取りで本質的に同じ問題を抱えていました。
それぞれにやり取りを引用してみましょう。
レモンの家族
ライム「いつからそんな悪い子になったの」
レモン「いうこと聞かなきゃいい子じゃないの?」野原一家
ひろし「こら!親の言うことが出来ないのか!」
しんのすけ「聞けないぞ!!!」引用:クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦/配給会社:東宝
どちらも親のいうことを聞かず自主性で動く子供という点が共通しています。
正に子の心親知らずで、子供の気持ちに両家の両親とも寄り添おうという姿勢がありません。
そういう親の身勝手な考えこそが正に子供の可能性の芽を摘み取ってしまっているのです。
これが極まると毒親になりますが、実は親は無自覚に子供に考えを押しつけてしまっています。
そうした親の強制からの解放もまた一つ本作の裏テーマとして描かれています。
未来を作るのは大人ではなく子供
最後はしんのすけとレモンの巨大なオナラで解決しますが、ここにもまた重要なメッセージがあります。
未来を切り開いていくのは大人ではなく子供であるということです。
子供は大人が思っている以上に想像力豊かで無限の可能性を秘めている生きています。
一見馬鹿馬鹿しくてもその発想から何か新しい知恵が生まれていくことはよくあるのです。
ギャグじみていますが、しんのすけもレモンも根っこは素直な感性を持っています。
だからこそお互いビジネスパートナー以上の関係となり、最後に本名を教えて貰えたのでしょう。
信じるな疑うな確かめろ
本作が最終的に辿り着いた答え、それは「信じるな疑うな確かめろ」ではないでしょうか。
しんのすけもレモンも自分が正しいと信じていたヒーローへの憧れ、国家への信頼を裏切られました。
そして逆に絶対の正義などはなく本当に大事なことは自分の目で見て確かめるしかないことも。
それがひいては親子の壁、国家の壁すらも超える一番の力強さ、考えになることを示してくれました。
スパイ映画への皮肉めいたパロディを塗しつつ、クレヨンしんちゃんらしい温かさと優しさに満ちています。