村での生活に慣れて仕事に意義を感じ始めた伊豆見を、スマは本当の親のように喜びます。なぜ彼女は伊豆見の面倒を見るのでしょうか。
スマにとって伊豆見はどのような存在なのか、二つの見解を示したいと思います。
子育てのやり直し
スマには豊昭がいましたが、金の無心に来るどうしようもない息子でした。スマも育て方を間違えたと後悔していたように見えます。
彼女も育て直せるなら息子をちゃんとした人間に育て直したかったでしょう。
それと同時に息子に対して申し訳ないとも思っていたのかもしれません。
そんな悩みを抱えたスマのもとに伊豆見が現れ、ある意味息子への懺悔の気持ちもあり、伊豆見を受け入れたとも考えられます。
更生対象者
この作品を素直に見れば、赤の他人が親と子の関係を築くハートフルストーリーです。
しかしもし意図的に伊豆見を更生させようとしていたのなら話は少々変わってきます。
スマの家はいわば更生施設の役割であると考えられるのです。
つまり伊豆見は更生対象者であり、彼を真っ当な人間に育てることを目的にしていたのではないでしょうか。
ぼうはええ子じゃ
伊豆見は出会った当初から良い子ではありませんでした。バイクを勝手に盗もうとしたり、金を持ち逃げしようとしたのですから。
それにも関わらず「ええ子」と言い続けたのには、それなりの理由があったのではないでしょうか。
人間は他人から受けた言葉通りの人物になろうとする傾向があります。
例えば「妹思いの良いお兄ちゃんね」と褒められたら、そのイメージを守り通そうとするようです。
スマも伊豆見に「ええ子」と繰り返すことで、伊豆見も無意識に良い子になろうとしたのだと思われます。
この言葉をスマが意図的に発していた可能性があるのです。伊豆見は半ば操られるようにして更生していったのかもしれません。
そしてスマの計画通り、彼は自首を選択したように見えます。
自首を決意したきっかけ
大切な人を悲しませたくないと思えるようになった伊豆見は、一大決心をします。
自首することで一見周りを悲しませる結果になりそうですが、彼に自首を決意させたきっかけとは何だったのでしょうか。
美知の過去
美知の過去を知り、自分の犯罪を重ね合わせた伊豆見。被害者たちの心の傷など今まで考えたこともなかったはずです。
罪を償っていない通り魔の加害者である伊豆見と被害者の立場である美和。
このままでは二人が、本当の意味で心通わせることはできません。
美和のことを愛していることが自首を決意した要因になると考えられます。
スマの涙
取っ組み合いをした豊昭の顔が、伊豆見には一瞬自分の顔に見えました。