これは一度富裕層が貧困層へ落ちたら戻るのにはとてつもない時間がかかることの比喩です。
正に現代社会の縮図そのものであり、突き詰めると生きるか死ぬかでしかありません。
ジェイソンが奇跡的に助かったのは地下の世界を知っているアデレードが居たからです。
数々の暗示
本作においては数々の映画作品や古典がオマージュとして断片的に散りばめられています。
挙げるとキリがないのですが、代表的なものに絞って示していきましょう。
Jeremiah 11:11
劇中ではこの表示が度々出てきますが、これはいうまでもなく「聖書」の11章11節のことです。
そこには次の言葉が記されています。
神が言った言葉はこうだ:彼らが逃げることのできない災害を起こそう。たとえ彼らが泣き叫ぼうと私は彼らに耳を貸すまい。
引用:旧約聖書
つまり、今アメリカが神の文言を無視して好き勝手やり、そのことから目を背けている暗示です。
そしてその結果今度は自分の分身という形でこの予言が現実になろうとしています。
このまま目をそらし続ければ一時的に助かったウィルソン一家も滅びの一途を辿るでしょう。
ハンズ・アクロス・アメリカ
冒頭でも映像が流れ、終盤のシーンに黒板の絵で描かれる「ハンズ・アクロス・アメリカ」も欠かせません。
1986年に起こったチャリティー企画ですが、本作においては揶揄を含んで用いられています。
確かにあの運動は国境や人々を超えて手を繋ぎその売上が貧困層に寄付されることとなりました。
しかし、それで本当に貧困問題は解決したのかというと全く解決には至っていないのです。
それもその筈、根本的な問題はそういう格差を生み出したアメリカ中心の社会構造にあるのですから。
ウィルソン一家、そしてタイラー一家はそのことに気付こうともしない楽観主義なアメリカ人そのものです。
何も変わっていないアメリカ社会
こうして考察を深めていけばいくほど、根本の問題は全く変化していないアメリカ社会に行き着きます。
インディアンを迫害し自分たちが正義の差別社会を作り、広い国土と武力を盾に好き放題という構造です。
現代のグローバリズムもその実態は「アメリカこそが正義」とする歪んだ一神教に過ぎません。
自分達が現代社会の病巣を生み出していることに気付かず、見て見ぬ振りをして表向きだけ友好的です。
アメリカ社会の病巣が生み出した弊害の象徴が本作の痛々しく怖くも悲しいクローン達ではないでしょうか。
アメリカ崩壊の兆しか?
本作はホラー映画を通してアメリカ社会の病巣、その本質へと迫ってみせた見事な作品です。
決して説教臭いわけではなく、かといってホラー映画に傾倒しすぎず非常にいいバランスでした。
本作の出現はアメリカ社会が作った既存の権威がもう崩壊の兆しを見せる時代の到来ではないでしょうか。
昨今あらゆる災害や社会問題で時代はどんどんその姿を変えようとしています。
クローン達が地上世界への進出を目論んだように、貧困層が今度は富裕層へ反旗を翻すかもしれません。
そのような時代の節目を象徴する社会派ホラー映画として、見る者の記憶に残り続けるでしょう。