同じカメラアングルなのにAが振り返ると衣装や背景が変わったり、また元に戻ったりするシーンがそれを表現しています。
過去の記憶の曖昧さとすり替え
XはAの記憶を呼び覚まそうと過去に遡り話し続けるが、次第にX自身も“本当にそうだったのか?”わからなくなっていきます。
逆にAはXの話しを聞くうちに“そうだったかもしれない…”という錯覚に陥り、ついに二人が約束を交わした記憶ができあがります。
しかしそれはお互い場所やシチュエーションが異なっていたことから、嘘の約束だったと考えることもできるのです。
人の記憶というのは曖昧で無責任であり、人から与えられる情報でいくらでも変換できてしまうということです。
4つの時空がまじりあった作品
後日談で脚本家のアランはこの作品には「Mが見てきた真実」「Aの記憶」「Xの回想」「現実の時間」の4つの脚本があると明かしました。
そして、映画の象徴ともいえる「フレデリクスバートの庭園」や古いバロック調の宮殿が一層複雑さを倍増させていました。
4つのパターンをさまざまなシチュエーションを駆使し一つのストーリーに仕上げたのです。
「映画史上最高に難解な作品」と言わしめた所以がここにありました。
AとXの生死の真相
Aは心理的にMに追い詰められていきます。Aの夫Mは去年のマリエンバートでの出来事を知っているようでした。
去年の話しです。
フランクは彼女に父の知人と思わせた。
彼女を監督すると称し、夜寝室に入り込み、彼女も不審を抱いた
偶然を装い口実を設けて、古い絵の解説をすると…
引用:去年マリエンバートで/配給会社:コシノール
このAとMと2人の友人との他愛もない会話に何となく隠されていました。つまりMは全て知っているとAに忠告していると考えられます。
二人は死んでいるのか?
AはMの圧倒的な力関係で1年前のXとの情事を必死に隠そうとしていて、バレていると知るとAもXもMに殺害されると怯えるのです。
怯えながらもAはXとMの狭間ですでに疲れているので、Mに殺されることを望んでいるようにも感じます。
Aの生死は羽飾りのついた白い部屋着を着たAのいる部屋でAは窓辺にいたMに銃で撃たれます。
Xの生死は羽飾りのついた黒いロングケープを着たテラスで、Mが近づき隠れるようXに言うとフェンスが崩れ落ちます。
引用:去年マリエンバートで/配給会社:コシノール
2人は死亡してしまったのではないかというこのシーンでは実際は殺害されていません。
真相は一つではない
妄想の中でMがAを殺害した真相はAがMからの束縛から解放されたい気持ちと、AはMに殺害されたことで罪の意識を軽くしたのでしょう。
Xが殺害された真相もいくつか考えられ、2人の死の真相には以下の要素もあったのではないでしょうか?
- AはXのつきまといから逃れたかった
- 単純にMの二人への怒りの表れ
ロビーに鳴り響くベルの音
時間切れを告げるベル
1年だ。だまし絵で飾ったこの建物でもう暮らせまい。