鏡や円柱に囲まれ、常に開閉する扉に広い階段、扉の開いたこの部屋
君の心はどこ?
引用:去年マリエンバートで/配給会社:コシノール
妄想の中でMに殺害されたAはXと駆け落ちする勇気を得たのです。知られまいともがいて迷い込んだ迷宮から出発するのです。
24時を告げるベルの音が鳴りやむまで、ホテルのエントランスでMが引き止めに来るのを待ったのはどうしてなのでしょう?
AはXと出ていくつもりはなく、MはAを必ず引き止めにくるという自信があったのでしょうか。
24時のベルが鳴り止むとおもむろに歩き出したAは、後戻りできないと悟ったように一度も振り向くことなく進みます。
AとXがただ並んで歩いて出口の暗闇に消えていくシーンは、絶望に向かっているようにも見えました。
ベルが鳴り止みMが現れる意味
また、Mに引き止めたい気持ちがあればベルの音に焦るところ、ベルが鳴り止みゆっくりとMは登場をします。
MのまなざしはAを哀れんでいるようでした。Mは逆にベルが鳴り止む前にAが戻ってくる方にかけていたのかもしれません。
Aは神経衰弱でマリエンバートの保養所に休養で来ていたのでしょう。MはそんなAを愛しつつXに役どころを譲ったようにも見えました。
いずれにしてもこのベルの音は、時間切れを告げるベルになったのです。
この映画が誕生した秘話
脚本家のアラン・ロブ=グリエはのちに、この映画の脚本に影響を与えた作品について下記の3点をあげています。
- 黒澤明の映画「羅生門」
- 芥川龍之介の小説「藪の中」
- アドルフォ・ビオイ=カサーレスの「モレルの発明」
映像のヒントは「羅生門」、内容のコンセプトは「藪の中」、斬新なアイデアを「モレルの発明」からこのような感じになるでしょう。
答えがあるようで無い映画
この映画はストーリーが明快にあるわけではありません。この解説もその中の一つでしかなく正解ではないのです。
翻訳されたセリフを読んでもつかみどころがなく、オルガンの音と男の語りが延々と流れメリハリもないので観ていて戸惑います。
人によってはその音楽と言葉、幾何学的な背景と映像効果で自分の潜在的な意識が湧いてくる人もいると思います。
ところが何度か観ていくうちに、3人それぞれのラブストーリーが見えてきます。真実と記憶と回想を絡み合わせ複雑に見せているだけなのです。
専門家でも答えを導くのが難しいので本当にこの映画には答えがないのかもしれません。皆さんの感じたままがこの映画の答えなのです。