幾ら不倫だったとしてもそういう話をするのに最も不似合いな時間と場所ではないでしょうか。
これは実は二人がこういう危険なことを平然としてしまえることの落差を強調しています。
これと似ているのがプールの着替え室で全裸で夫への不満を話す場面ですが、こちらは女性限定の密室です。
しかし、マーゴとダニエルはまるで隠す気もなくオープンに行っているのです。
それは「真人間」の象徴として描かれているルーと綺麗な好対照をなしています。
どっちつかず
その上で二つ目に、二人の関係が実は明確な不倫ではないという中途半端さを現しています。
カフェで話している時点ではマーゴもダニエルも交際していないし肉体関係を持ったわけでもありません。
仮にアンダーグラウンドな話をしたとしてもマーゴは何も傷付いていないので不倫には当たらないわけです。
その辺りの煮え切らない中途半端さを表現するために真っ昼間のカフェというシーンが出来たのでしょう。
逆にいえばマーゴにとってはこの程度ではまだ火遊びといえないという甘い認識になるのですが…。
マティーニ
そしてもう一つ、このシーンで目立つのはマティーニというカクテルです。
このカクテルは映画「007」などでも出てくるカクテルの帝王と名高いお酒であり、飲む人を選びます。
そのようなものを昼から20代後半の若い人妻が飲むことはダニエルとの関係に本気な証拠です。
そうした不釣り合いさの中に見えるマーゴの不倫への凄まじい情念が飲み物からも見て取れます。
夜のバーで嗜むべきお酒を昼間からカフェで飲み愛の会話をするのは不協和音の象徴です。
青い鳥探しの虚しさ
しかし、そこまでしてマーゴが選んだ不倫と離婚の道は何の結果ももたらさず終わってしまいました。
彼女がなそうとしていた青い鳥探しは虚しい幻想のままになってしまったのです。
確かに安定した生活を5年も繰り返せばマンネリ化もするし新しい刺激を求めたくもなるでしょう。
しかしそれならそれで新しい趣味を見つけるとか仕事を見つけるとかやりようは幾らでもあったのです。
マーゴが最後に一人やっていた遊園地で遊ぶ空想もただただ彼女のそんな切なさ・悲しさを強調しています。
長期で物を見る目
結局火遊びを続けたところで嘘っぱちのでたらめな快感しか得られないことを知ったマーゴ。
もしかしたら彼女はこの先も火遊びを続けるかもしれないし止めるかもしれません。
長い結婚生活を続けるには相当な我慢強さ、そして何より長期で物を見る目が必要です。
そしてまた、定期的に腹を割った話し合いの場をしっかり設けることも欠かせません。
人の心が複雑化した現代において夫婦の関係もまた再考を迫られているのではないでしょうか。
本作は過激なアプローチによって夫婦生活に必要なエッセンスを伝えてくれる名作です。