ただ、目の前の動物がかわいいのです。だからこそ、平八は次のシーンで声高らかに宣言します。
犬も猫も人もない
米沢との和解が済むと、平八は抗争の終了を宣言しました。
今は天下泰平。犬も猫も人もない
引用:猫侍/配給会社:AMGエンタテイメント
つまり犬だから、猫だから、とこだわって抗争を続けるのは馬鹿らしいということです。
そもそも若頭同士が猫や犬にこだわっていたのであって、周りはさほど気にしていませんでした。
両家が今後も長く存続するためには、若頭同士のいがみ合いが解決すれば、互いに争うことなく暮らせます。
父親同士の息子たちの将来を想う心が通じ合い、抗争は収まったのです。
平八の源七郎への教示
平八は年齢からみても、もうすぐ引退です。
その引退を前に、息子へ教えることが山ほど見えてきました。それは、目が悪くなったことで見えてきたものもあるようです。
目が見えないからこそ見えるようになる
映画冒頭、源七郎は平八が最近アジをタイと勘違いするほど目が悪くなったことを語ります。
そうして平八は目が悪くなるのですが、玉之丞などの動物が安心しているかどうか、という目には見えないものが見えてきました。
実際に久太郎に抱えられている玉之丞を見て、玉之丞の安心している気持ちが平八に伝わり、玉之丞を久太郎に託します。
さらに言えば息子が縁談について焦っていること、玉之丞が盗まれてたことを隠していること、平八は目が見えなくなって分かりました。
だからこそ、源七郎に目で見るものばかり信じるな、と教え諭すために抗争を終わらせたのです。
猫は政治の道具ではない
平八は源七郎に、猫を政治の道具として扱うな、という意味の言葉を投げかけます。
つまり、平八にとって奉行所の猫との縁談は、自身が成り上がるためのものと考えているわけではないのです。
むしろ愛猫を大切にすること、言葉がないからこそ気に掛けること、これらの方が政治的なものより大事だと気付きます。
また猫だけでなく、犬においても大切なことは共通しており、だからこそ抗争の無意味さを悟るのでした。
この抗争に一番躍起になっている源七郎を止めれば、全て丸く収まるのです。
お梅の行動のなぞ
久太郎がエサを選り好みする玉之丞のために、相川家の屋敷へ忍び込み、お梅と遭遇します。
その後、なぜかお梅は久太郎の後を追いかけており、そこで玉之丞を見つけるのでした。
なぜ、お梅は久太郎のあとを追いかけたのでしょうか。
相川家でのひどい扱い
相川家に身売りされたお梅は、相川家でただ一人の「お姉さん」にいじめを受けます。
常日頃から棒で叩かれ、脅されるうえ、久太郎を初めて目撃したときには、玉之丞の代わりの白猫と一緒に牢の中に入れられていました。
身売りの身であるがゆえ、自由に外に出かけることは許されませんが、さすがに牢の中で長期間過ごすのは大変だったのです。
しかも、目の前の猫番である前場新助は久太郎に打ち負かされた後、久太郎の後を追いました。
普段からひどい目に合わされているし、現在は牢の中。少し羽を伸ばしてみようかと、お梅は「少し」だけ外に出ていくのです。
猫好きのシンパシー
お梅は猫世話役として、これまで玉之丞を誰よりもかわいがってきました。そこへ現れた久太郎に、猫好きのシンパシーを感じるのです。
動物は本能的に、目の前にいる人間を敵か味方かを見極める能力があると言います。
独り身で猫好きという共通点がある久太郎(妻子は故郷に置いてきている)とお梅(身売りで帰るところはない)です。
お梅は、猫とずっと関わってきたからこそ動物的本能を呼び覚まし、久太郎への仲間意識を感じます。