しかし何気ない会話やふと見せる仕草で感じ取れます。
それが小さいころから四姉妹を知っていて、心配しながら見守る近所の住人のような気分になる理由なのです。
これほど『説明なし』にもかかわらず感情移入できる映画はそう多くはありません。
鎌倉の風
鎌倉の風景も飽きない理由の一つです。
『海』がテーマですが、前面に押し出すわけではないストーリーを成立させるには『鎌倉』という環境が必要でした。
冒頭の佳乃が出てくるマンションのシーンから最後の浜辺のシーンまで『海』の存在を感じます。
しかし、本編中に海をバックにした画はあまり多くありません。
それを見ている人物の細かな描写によって『海の風』が画面から流れてくるのです。
まるで鎌倉に長年暮らしているかのような落ち着いた気持ちになれるのも飽きない理由ではないでしょうか。
海街で暮らし続ける四姉妹
映画では細かく説明されていない事の一つに彼女たちの『苗字』があります。
三姉妹は『香田』でその母親は『佐々木』です。すずとその義母は『浅野』ですが、父親の苗字は何だったのでしょう。
その答えは『浅野』です。
『浅野』という苗字だった父親が『香田』に婿入りし、離婚後に母親が『佐々木』と再婚し父親は旧姓に戻りました。
映画だけではわかり難くモヤっとしましたが、原作で検証する限りこれで間違いないようです。
この苗字が互いの距離感をうまく表しています。
しかし苗字は大切ですが重要ではありません。
潮風は彼女たちを包み込み『海街の四姉妹』として育んでいくのです。
そしてそれをずっと見守るような気分でエンドロールを観てしまいます。
見飽きないもう一つの理由と原作者の感想
公式ホームページに原作者である吉田秋生の感想が掲載されています。
それは素晴らしい映画で幸福感に包まれたが少し嫉妬を感じたというような内容です。
原作者が嫉妬したのはどういう部分だったのでしょう。
それは二次元の世界から飛び出した主人公たちが原作者の想像を超えいきいきと躍動していたからです。
漫画の作品としては生み出せても声や細かい感情は読み手の想像に委ねるしかありません。
その部分をキャスティングと演出でリアルに魅せた監督への最高の誉め言葉なのです。
原作のイメージを壊すどころかより増幅させた素晴らしい映画でした。
観た後に原作も読みたくなったという方も多いのではないでしょうか。