出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B00CP0YGKS/?tag=cinema-notes-22
本作は1994年公開の香港映画で、九龍の雑居ビル「重慶大厦」と飲食店「ミッドナイト・エクスプレス」が舞台です。
警官223号と謎の金髪女、またもう1人の警官663号と飲食店の女性店員フェイとの恋愛模様をスマートに描いています。
ウォン・カーウァイ監督をはじめトニー・レオン、フェイ・ウォン、ブリジット・リン、金城武を一躍有名にしました。
その斬新な映像表現とストーリー、そしてクオリティの高い演技により以下の賞を受賞しています。
第14回香港電影金像奨最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(トニー・レオン)
第31回金馬奨で最優秀主演男優賞(トニー・レオン)引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/恋する惑星
本稿では缶詰の賞味期限が意味するものをネタバレを含みながら考察していきます。
また、彼らの孤独を癒し傷を埋めるものが何かや感傷的な男たちの心理にも迫っていきます。
香港の不安定さ
本題を考察する前に、香港映画というと思い浮かぶのはどちらかといえばカンフー映画でしょうか。
しかし、本作における香港は華やかさ・煌びやかさではなくやや擦れた都会の猥雑さを前面に押し出しています。
東京でいうなら銀座のような上品な場所よりはクールな若者文化で賑わう渋谷・新宿に近いイメージです。
本作は2つのオムニバスで構成されており、共通しているのは主人公が失恋を引きずった情けない刑事であること。
その情けない刑事たちがたまたまゆきずりで出会った女たちと束の間のアバンチュールを楽しむ物語です。
若者文化特有のカッコつけとダサさ、また若さ故の輝きと過ちといった脆さ・不安定さが香港に表現されています。
香港とはそのような絶対の保証がない不安定な場所であることが演出からも非常に伝わってくる仕組みです。
缶詰の賞味期限が意味するもの
本作では前半も後半もどちらでも缶詰の賞味期限の話が出てきます。
果たして缶詰に書かれた賞味期限とは何を意味しているのでしょうか?
その意味を考察していきましょう。
大量消費の使い捨て文化
まず90年代から特に顕著になってきたのは大量生産・大量消費の使い捨て文化です。
これは高度経済成長期が齎した安かろう悪かろうによる品質軽視の傾向を現しています。
その証拠に失恋した警官2人は物の選び方や女性の接し方が軽くて安っぽいのです。
見ず知らずのドラッグディーラーを初対面で口説きにかかる警官223号はその傾向が顕著に出ています。
1つのものを大切にしないからこそ彼らは賞味期限切れのものでも買ってしまうのです。
永遠の愛など存在しない
その大量消費の感覚は恋愛においても同じで、警官たちはさっさと次の女を口説きにかかります。
これは永遠の愛などは現実に存在しないことをもまた意味しているのではないでしょうか。
警官663号とフェイにしても、警官223号と金髪女にしても性行為などほぼせずに一緒に添い寝しただけです。
しかしその程度の恋でも愛でもない偶然の出会いに彼らは妙なときめきや愛を感じていました。
彼らが真に欲しているのはそのほんの一瞬のアバンチュールでしかないのかもしれません。
それをあくまでもクールに淡々と表現しているのが本作の恋愛描写の非常に興味深いところです。