題名にもなっているキュクロプスとは何でしょうか。
ギリシャ神話の神としてのキュクロプス
キュクロプスはギリシャ神話に登場する下級神で卓越した鍛冶技術を持つとされています。
隻眼の巨人でゼウスの雷土とポセイドンの槍は彼が造ったと伝えられているのです。
その容姿から愚鈍で孤独な印象を持たれることが多いのも特徴でしょう。
日本の神話との興味深い共通点
日本の製鉄と鍛冶の神はアメノマヒトツノカミとアマツマラですがこの神々も隻眼です。
またタタラと関係の深いダイダラボッチもひとつ目と言い伝えられています。
製鉄や鍛冶に関連する神が国も時代も違うのに共通点を持つことはとても驚きです。
オディロン・ルドンのキュクロプス
水の妖精に恋したポリュフェモスを描いたこの作品は潜在意識を探求した象徴主義運動の代表作のひとつです。
どこか優し気な雰囲気を醸しつつも見る者を怖れさせるこの巨人は篠原自身を象徴しています。
ポリュフェモスから逃れ隠れている女性の名はガラティアです。
そして彼が偶然訪れ妻にそっくりなハルを見つけたバ―の名前もガラティアでした。
ガラティアは篠原の妻をイメージさせます。
妻の亡霊
埠頭で眠る篠原は妻の亡霊に会いに来ているのです。
犬を連れて行ったときには妻の亡霊は現れませんでした。
その後のシーンで犬は先端までは連れて行っていないことから、篠原が妻の亡霊を待っていることがわかります。
なぜ妻の亡霊に会いたいのか
妻を殺したという意識があればその亡霊に会いたいという感情はわかないでしょう。
この時点で彼は本当に自分が犯人ではないと思っているのです。
しかし事実は違いました。
アルコール依存症により犯行時の記憶が曖昧であることを利用したのは松尾だけではないということです。
記憶をすり替えている篠原は『殺されてしまった妻』の亡霊が復讐を促していると思っています。
そして篠原は妻の亡霊に導かれるように復讐へとひた走りますが、同時に悪夢にうなされていきました。
自分の罪を完全に記憶から消したのは脳の働きで、心が持つ潜在意識の中には真実がありますから歪が生まれているのです。
その歪が悪夢を呼びます。
眠れない篠原が初めてハルを見たとき逃げたのは事実から逃げたことを表しているのです。
妻は何を訴えているのか
妻は口を動かし何かを篠原に伝えようとしています。
名演技と名演出でラストまでミスリードしてしまった観客にとって、彼女の口は犯人を指しているようにしか見えません。
しかしこの亡霊は篠原の深層心理が見せている幻影です。
心のどこかで彼は自分がやったことを覚えているのでしょう。
妻を殺したシーンを回想する視点の違い
出所し松尾に用意された廃屋で暮らし始めたころの篠原は、妻の死体とそのそばで泣いている自分だけを見ています。
完全に被害者と被害者家族です。
そこには悲しみと後悔しかなく観客は篠原に同情的な感情を抱きます。
事件調書を読み、西と射撃練習を始める頃には妻と一緒に刺されて殺された『議員の先生』の姿も見えるようになりました。
おそらくこのあたりでミステリーファンは篠原がやったのだと気づくはずです。
なぜなら被害者家族であれば『妻の方が後で殺された』ことや『無抵抗に刺された』ことを知るはずがありません。
言い換えれば妻は夫である篠原の犯行を全て見ているということです。
犯行当時、本当に篠原は泥酔していたのでしょうか。