当然そんな情報を、ジャン宛の手紙に書くわけもありません。これは可能性として十分考えられます。
愛する女との情事
実は、ジュディットがジャンを騙すことを示唆しているかのようなシーンがありました。
ジャンが初めて検事の元へ報告書を渡すシーンで、検事はジャンに対してこのような言葉を投げかけます。
愛する女と寝てないな?奴らは色恋に敏感だ。妙な振る舞いでバレるなよ
引用:アナーキスト 愛と革命の時代/配給会社:ミッドシップ
そう考えてみると、ジュディットがジャンの元へ情事のために訪れたのは、かなり唐突でした。
もしかすると、この時すでにジュディットはジャンに取り入るため、ジャンと親密な関係を装おうとしていたのかもしれません。
親密な関係になると、ジャンそのもののさまざまな情報を抜き出すことができます。
もしそうだとすると、ジャンは検事の言葉通りの展開に見事にはめられた、ということになります。
検事からジュディット以外の名前が出ない
ダイナマイトによる犯行が事前に抑えられ、ジャンは検事に取り調べをされます。
その際検事からは、ジュディットという女がいたかどうかを聞かれました。ジュディットは見張りをしていただけです。
また、もしも警察がエリゼ率いるアナーキストの集団を知っているのであれば、マリーやビスキュイの彼女であるクロチルドも名前が出るはず。
しかし検事が聞いたのは、ジュディットを知っているかどうかだけでした。つまり、ジャンに対して揺さぶりをかけたのです。
ジュディットが内通していたのであれば、検事側は当然その名前を知っているだろうし、ジャンとの関係も知っています。
つまり検事側は、ジャンを動揺させることであら探しや情報を絞り出し、最後にそれを突きつけ、ジャンを「切る」つもりなのです。
だからこそ最後の質問で、ジャンがアナーキスト(無政府主義者)なのかどうかを聞いたのでした。
マリーがダイナマイトを密告した可能性
ダイナマイトを密告する人物として、最後の可能性があるのがアジトの本拠地を持つマリーです。
実はこのマリーは、影の嬢王であるかのような描写が多くされていました。
ダイナマイトを使用することに最後まで反対
エリゼとウジェーヌがダイナマイトを製作しているシーン。その場に居合わせたマリーは、ダイナマイトの使用に反対しました。
また、森で集めた木々の枝を燃やしているシーンでも、はっきりとダイナマイトを使用することに反対します。
やるならこれでお別れよ。ジュディット行かないで
引用:アナーキスト 愛と革命の時代/配給会社:ミッドシップ
結局犯行は実行されます。となると、組織とお別れしたマリーがどんな行動をするか。
これまで仲間としてきた、エリゼやウジェーヌ、ジュディットを救うためには、犯罪を未然に止めなければなりません。
となると警察への密告でしか、その目的は果たせないでしょう。マリーが警察に密告する理由は、十分にあり得ます。
実は影の嬢王だった
映画の節々で、アナーキスト(無政府主義者)たちの個人面談のような映像がありました。
面談を行っている人物は常に後ろ姿なので特定は難しかったですが、ジャンの面談の時に、それがマリーであることが分かります。
マリーによる個人面談は、一緒に住む人全員に行われていました。
質問の中には、これまでの経歴や組織にいる理由、さらには本名を疑ってかかることもあります。
その様子はまさに、影の嬢王のようでした。その嬢王ですら、エリゼを含む組織全体をコントロールできなくなります。
もともとマリーは、政治的思想はあっても、暴力による解決は望んでいません。
嬢王として組織がコントロールできなくなり、暴力行為に走るのであれば、暴力を止めるため警察に密告したのです。
愛と革命の時代に渦巻く思想と立場
『アナーキスト 愛と革命の時代』は、潜入捜査官と捜査される側の女性の禁断の恋の物語「のように」見えます。
しかし映画の終わり方や手紙を見てみると、どうやら時代背景に伴った、政治的思想や立場の「革命」を表すものでもありました。
ジャンには潜入捜査官として、ジュディットは自分の夢に忠実な立場として、エリゼには政治的思想、マリーには思想と理想…
こう見てみると、ただの恋物語ではなく、それぞれの立場や思想が渦巻いた映画であることが分かります。
そんな個人の立場や思想を予測しながら本作をもう一度見てみると、時代背景に伴う新たな発見があるかもしれません。